コンビニ王子

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コンビニ王子

 1日の激務を終え、満員御礼の電車とバスを乗り継いで自宅マンションへ帰る途中に、そのコンビニはある。  いや、至って普通の大手コンビニチェーンの店なんだけど。  最寄りのバス停の目の前にあるもんだから、ついつい立ち寄ってしまうのだ。この立地上手め。  時刻はだいたいいつも夕方6時から7時の間。残業なんかしない。私は母親で、食べ盛りの中学生が一人、私の帰りを待っているから。  コンビニでいつも、ちょっとしたお菓子とタバコを買う。タバコはやめられない。やめる気もない。マナーは守るよ、大人だもん。  この日も私はいつものようにふらりとコンビニへ吸い込まれていった。チョコレート片手にレジへと並ぶ。  ああ、今日もよく働いた。身も心もボロボロだ。今夜の晩ごはんも冷食チンだな。チョコレートは1日頑張った自分へのご褒美。  そんな事を考えてるうちにレジがあき、私の番になった。チョコレートを台に乗せて、店員の後ろにずらりと並んでいるタバコの棚を見つめ………  え、ちょっと。並び順がきのうまでと違うんだけど。私、銘柄じゃなくて番号で覚えちゃってんだけど。なんでいつもの「132番」のところにラークが置いてあんのよ? 今どきのタバコはねえ、なんだかこじゃれた名前がついてて、40代後半ともなるとただでさえカタカナ覚えんの大変なんだから。  レジ打ちの兄ちゃんが邪魔で、小柄な私は体を左右に振って自分のタバコを探した。  その様子に気付いた兄ちゃんが、ふとタバコの棚を振り返った。あーありがと、棚がよく見えるわ。  ……って、なんで私のタバコ探しだしてんのよ? 「これですよね?」と目で訴えてくる。うん、そう、それだけど……。  え、もしかして、私がいつも同じの買ってるの、覚えててくれてるの……?
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