仕事終わり

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
けれど、できない事が一つある。 ………それは、話しかけるという行為。 せっかく隣にいるのに、話しかける事すら出来なくて。 代わりに、彼がコーヒーを頼めばカフェオレを、反対にカフェオレを頼めばコーヒーを注文するだけ。 あぁ、どうしてこうなんだろう。 普通に 「天気が良いですね」の一言でも話せばいいのに……………。 それが出来ないから毎日カフェに来てしまう。 一目でも彼の姿を見たいから。 話しかけることも出来ないのに、一年も彼を好きでいれるのはきっと、 ──彼が優しいからだろう。 「どうぞ、ごゆっくり」 香ばしい香りと共に運ばれてきたコーヒー。 一口飲もうとした、その時だった。 スッ──── そっとミルクを一つ、カップの近くに置かれたのは。 ほらね、無言の優しさ。 本当は私、ブラックでなんて飲めないもの。 彼はいつ知ったのだろう。 静かにミルクをカップに注ぐ。 嬉しい。 私の存在を彼が知っている事が。 その優しさが。 ───あぁ、やっぱり好きだなぁ。 「……………美味しい」 「良かったですね」 ふと洩れた一言に、彼は隣で微笑んでいた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!