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けれど、できない事が一つある。
………それは、話しかけるという行為。
せっかく隣にいるのに、話しかける事すら出来なくて。
代わりに、彼がコーヒーを頼めばカフェオレを、反対にカフェオレを頼めばコーヒーを注文するだけ。
あぁ、どうしてこうなんだろう。
普通に
「天気が良いですね」の一言でも話せばいいのに……………。
それが出来ないから毎日カフェに来てしまう。
一目でも彼の姿を見たいから。
話しかけることも出来ないのに、一年も彼を好きでいれるのはきっと、
──彼が優しいからだろう。
「どうぞ、ごゆっくり」
香ばしい香りと共に運ばれてきたコーヒー。
一口飲もうとした、その時だった。
スッ────
そっとミルクを一つ、カップの近くに置かれたのは。
ほらね、無言の優しさ。
本当は私、ブラックでなんて飲めないもの。
彼はいつ知ったのだろう。
静かにミルクをカップに注ぐ。
嬉しい。
私の存在を彼が知っている事が。
その優しさが。
───あぁ、やっぱり好きだなぁ。
「……………美味しい」
「良かったですね」
ふと洩れた一言に、彼は隣で微笑んでいた。
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