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小学校襲撃事件から一週間‥‥。
緊急搬送され集中治療室から、いまだ出られぬままに、背中に大きな傷跡を負った忠雄。
相手が横へと勢いよくナイフを切り裂いた為、内臓まで達する事は無かったが、三十針の縫合を要する程に傷口が広く、それに伴って多量に出血した事で、一時瀕死の重傷に陥った。
それでも、昏睡状態から目覚めた三日目には、背中の傷である為に仰向けに寝る事も出来ず、唯一身動き出来ても、横になるか、うつ伏せのまま‥‥。
時として激しくこわばる傷口の激痛に、顔を歪ませ、それと共に熱も上がった。
もちろん看護婦も呼べば近くにはいたが、目を開けた時、なぜか必ず側にいたのは、お手伝いの喜久だった。
ぼんやりと思考も回らないままに、犀の世話もしないで、どうしてここにいるのか‥‥。
三週間後には、ようやく一般病棟の個室へと移り、振り回されていた激しい痛みや熱も収まり、ようやく熟睡する事が出来るようなっていた。
朝から夕方まで‥‥結局、毎日、忠雄の介護に来ていたのは、やはり喜久だった。
『犀の世話は、いいのか‥‥?』
口癖のように呟く忠雄の言葉に、喜久はあきれた表情を向ける。
『犀さんは、食事さえ用意しておけば、一人でもきちんと生活出来るから心配しなくてもいいんだよ。お前は、そんな事気にせずに、今は元気になる事だけに専念しなさい。』
そう言っては、優しく笑ってみせる。
時々、同じ組長の家に出入りしている男達が、組長の息子を命懸けで守り抜いたと尊敬の念を込めて数人見舞いには来たが、唯一、犀だけは顔を見せなかった。
元々は、犀を狙った襲撃事件であっただけに、やはり自宅から出る事には一層の警戒をしているのだろう。
それから退院するまでの二ヶ月間‥‥結局、犀は一度も忠雄の前に姿を見せる事は無かった。
リハビリも早々に、再び組長の差し向けた車で、豪邸へと戻った忠雄。
あれだけの重傷を負って、ここへもう一度戻って来られるとは、あれだけの痛みと高熱に苦しんだ自分を思うと、不思議な気分だ。
すでに、我が家ともいえる玄関口を前に足を止めていた忠雄を、嬉しそうな喜久が出迎える。
『忠雄‥‥おかえり。よく帰って来たねぇ。本当に、良かった‥‥。』
感極まって泣きながら忠雄を抱きしめる喜久。
あまり強く抱き締められると、背中の傷がまだ痛むのに‥‥と、しかめた視線を上げた先で、かすかに顔を覗かせていたのは犀だった。
「犀‥‥。」
手を上げ、思わず声をかけようとした途端、なぜか部屋の奥へと姿を消した犀。
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