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『だったら?どうしろって言うんだ‥‥。』
『仕方がない、僕が教えてやる。物覚えの悪いお前でも分かるようにな‥‥。その代わり、僕は家庭教師みたいに優しくないから覚悟しろよ。』
そう言うと、数冊の問題集の中から、一冊を取り出して忠雄の前へと広げた。
『まずは、お前の理解範囲を把握する為に、この問題を問いてもらう。教えるのは、それからだ。』
ポカーンとした表情のまま、犀を見上げていた忠雄。
なにせ、今まで無視されて来た、この意地っ張りが、自分の家庭教師にと名乗り出たのだ。
いや、それ以上に、三歳年下の子供に勉強を見てもらうとは‥‥。
確かに頭が良い事は認めてはいるが、実際、自分が教えられるハメになるとは思ってもみなかった。
少なからず、あの学校の教師達が犀の存在に対し嫌悪感を覚えたのも、今となっては理解できる。
さすがに、この状況‥‥大人だったとしたらプライドもズタズタだ。
『ほら、早く始めろよ。これだけの量、いつになったら終えられると思ってるんだ。』
犀の催促に、あきらめムードと同時に、ようやく問題集と向き合い始めた忠雄。
そんな様子を、食事の支度に追われていた喜久がそっと見守る。
血は繋がってはいないが、気兼ねなく言い合える存在‥‥。
まるで、兄弟のような雰囲気さえ感じられる。
これで、ようやく二人の仲も今まで以上に距離を縮める事だろう。
だが、本当に乗り越えて行かなくてはならない大きな壁が、この先に幾重にも重なるようにして立ちはだかっていようとは、この時の2人には、まだ知る由も無かった。
目の前には、定番のサンドイッチにホットサンド、下の段には菓子パンから惣菜パンまでがズラッーと並んでいる。
病院内の一階フロアーにあるコンビニで、瑠依は手にした買い物カゴに、おにぎり二個を入れたまま、さっきからボーッと同じ場所に突っ立ったままだ。
田中僚も祥己も、今はデータ解析に関する情報や、事件に関する捜査内容の事で頭が一杯のはず。
まして、背後に“dead-lion(デッド=ライオン)”と称する世界的に脅威な組織が存在しているとなると、瑠依には到底入り込めない程の厳しい状況下である事に変わりない。
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