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目の前で亡くなった、花木田南緒人‥‥。
全ての真実を暴く為、彼の意志を命懸けで引き継いで来たはずだった。
だが結局、何の力も持ちえない自分に、これ以上一体何が出来るというのだろう。
『守るべき者は、もうすでに敵の手の中にある。そして、君はその姿を目撃しているはずだ。』
田中僚が口にした言葉だけが、瑠依の脳裏へと鮮明に蘇る。
『パーティーが行なわれていた、あの会場のどこかに女神の子供と思われる人物が、あそこに確かに居たと後になって知ったんだ。上手くあの会場から君を追い返したつもりが、密かに当人が姿を見せた場所に君は偶然居合わせた。君は確かに重要な物事を目撃したはずだ。』
あの会場に潜入した記憶は確かにある。
そして、僚が言う通り、続きを差し示す場面だけが全く浮かんで来ない。
僚が言った通り、女神の子供を目撃した上に、その正体に関する手がかりも何かしら目にしていたのだとしたら‥‥。
「あの~、お客様?」
「えっ?」
あまりにも、突っ立ったままの瑠依を見兼ねて、コンビニ店員が声をかけて来た。
「どこか、体調でも悪いんですか?」
病院内にあるコンビニならではの言葉だ。
「いいえ‥‥ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたもので‥‥。」
慌てて、適当に商品をカゴへと選び入れると、お会計を済ませ店を出る。
全ての記憶が戻っていてもいいはずなのに、どうして、一番肝心な記憶だけがスッポリと抜け落ちているのか‥‥。
“ガシャーン!”
祥己のいる部屋を目指しながら歩いていた瑠依の傍らで、突然、鏡の割れるような大きな音が響き渡った。
「何?」
その足で駆けつけた先で、姿見の大きな鏡が砕け散っている。
誰もいない大きなリハビリルーム室内で、何かが壁際の鏡に当たったようだ。
周囲を見回してはみたが、その原因となったモノが見当たらない。
驚いてきっと誰かが駆け付けて来るだろう事を思い、室内に足を踏み入れたその瞬間、入口の扉が激しく閉ざされた。
鏡の失われた室内であるにも関わらず、辺り一面が一瞬にして鏡の部屋と化す。
「なっ‥‥何なの、これ?」
鏡の習性とも言える、幾重にも重なった瑠依自身の姿に取り囲まれ、異様な空間に包まれる。
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