40人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
やがて、その中にたった一人だけ、口元に不敵な笑みを浮かべる存在が気味の悪い笑い声と共に瑠依へと近づいた。
「見ぃ~つけた‥‥。幻の鏡が割れる音に引き寄せられて来たからには、お前が鏡の持ち主であるに違いない‥‥。あの霊能者まがいに、危うく結界口へと引っ張り込まれる所だったが、おかげで一番肝心となる存在を見つける事が出来た訳だ。感謝しないとな‥‥。」
「な‥‥何なの?一体、誰が喋っているの?」
「さあ、一体誰が喋っているのかな?見つけられれば助かるかもしれないが、出来なければお前自身の存在自体が粉々に砕け散るだけだ。唯一助けてくれるだろうあの男も、今はあちらの世界で守護神もどきと楽しく戦ってる頃だろうし、戻って来た時に、これから起こる現実を知ったら、絶望と共に、どう壊れ落ちるのか‥‥‥想像するだけで、あ~ゾクゾクする。」
これは、幽霊でもない、まして魂の存在でもない、ただ恐怖心だけが身体中を駆け巡る。
悪霊と化していた香山達也と対峙していた時の感じとも違う‥‥。
一体、この存在は‥‥。
瑠依は身動き一つ出来ぬままに、思わず息を飲んだ。
その一方で、祥己と相対していた田中僚の前へと、ある人影が突然にして姿を現した。
「なんで、あんたがここに‥‥。」
「えっ?」
祥己を見据えたまま、人影へと問いかける僚。
視線の先が、自分の背後にある事に気づいた祥己は思わず振り返った。
「一体、誰と話しているの?」
「花木田‥南緒人だ‥‥。」
「えっ?花木田南緒人がここに?」
祥己の見えない、聞こえない所で、無言の会話が交わされているのだろうか‥‥。
一瞬にして、僚の顔色が変わると同時に部屋を飛び出してゆく。
「ちょ、ちょっと‥‥一体、どこへ!」
祥己も思わず後を追った。
やがて、扉の締まったリハビリルームの前で立ち止まる。
「ねぇ、一体何があったの?」
扉を開けようと僚が手を掛けるが、ビクともしない。
「マズイ‥‥閉じ込められたようだ。」
「閉じ込められたって、一体誰が?」
「瑠依さんだよ。幽玄亜紀も、すぐには戻って来られない状態にある。この場合、最悪の状況だ。」
扉の摺りガラス越しに、部屋中に充満しているだろう日中の明り一切が黒い闇に包まれている異変を前に、祥己もようやく今の状況を飲み込んだようだ。
最初のコメントを投稿しよう!