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押し潰されそうになる瞬間、巨人の手がピタリと止まりゆっくりと遠退いていく。頭上から退けると巨大な目玉で俺の周囲をギョロギョロと見回す。
「な、なんでしょう…」
「お前の周りにあるその光輝く筒は何だー!!! 見慣れぬ物だぞ!!!」
巨人に言われて俺は自分の足元を見渡す。一個100円もしない激安ビールの缶がいくつも、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。こんな大量に買った覚えはないし、何故ここにあるのか分からないが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
「こ!! これはビールという物です!! 私なんかより滅茶苦茶美味しいですよ!! 一杯どうですか!!」
「びいるだとー!!! 聞いたことない物だな。寄越せー!!!」
「な!! 何かグラス…は無いよな…そうだツボ!! ツボありますか!!」
おうよと言いながら巨人はこれまた自分の数百倍の大きさはあるツボの口をドシンと地べたに置く。俺は助かりたい一心で、死に物狂いでビール缶を開けてツボの中に入れていく。一缶開けてもデカイ壺の前では水滴程度にしかならず、俺はゼェゼェ言いながら何往復もしてビールを注いでいく。
「じゅ、準備、できました…どうぞ、お飲み、下さい…」
「おぉー!!! 待ちくたびれたぞー!!!」
巨人は俺の血と汗の結晶とも言えるツボの半分まで注いだビールを豪快に飲んでいく。汗だくな俺はその巨人の立ち振舞いを、悟られない様に憎々しげに見守る。畜生、あんないとも簡単に飲み干しやがって。
「…こ、これは、美味いぞぉー!!! なんだこの水はー!!! 黄色くて泡立っていて苦くて…うぉおーたまらんぞー!!!」
喜ぶ巨人の姿を見た俺は、安心のせいか膝から崩れ落ちる。強運と必死の頑張りの甲斐あって俺は食われずに済んだ様だ。そう確信して安堵したその時。
「お前は神の遣いだったのだなー!!! いやーこれは失礼した、ガハハハー!!!」
「えっ? ちょ!?」
上機嫌の巨人の手が、天高く振りかぶる。まるで酔っぱらいが隣の奴の肩を叩くかの様に、そのまま俺目掛けて落下してきて…
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