朝比奈 リナの日常

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第一章   魔女とゾンビとゴーストと  廃墟のビルの中、殴りあう音が聞こえる。 クスクスと女の笑い声が壁に囲まれた暗い空間に響く。 「絶対に許さんぞ」  黒髪の男に頭を押さえつけられた中年の男が ゴシックロリータの格好をした金髪の少女を悔しそうに見上げた。 「やれるならやれば」  冷たい氷を思わせる青い瞳が男を見下す。 「みてろよ」  中年の男は地を這うような唸り声をあげると 押さえつけていた若い黒髪の男を吹き飛ばし、 壁に叩きつける。 黒髪の男の首には革の首輪に鎖が繋がれて、 その反対側を持つ金髪の少女は鎖ごと数歩引っ張られていた。 「やるじゃん」  金髪の少女が舌なめずりする。 「はあ、はあ、はあ」  中年の男は肩で息をしている。 その体は半分透けて壁紙の剥がれたコンクリートが見えていた。 「夜明(よあけ)。兄さん。早く起きて」  金髪の少女は中年の男に吹き飛ばされた全身が青紫っぽい肌をした 黒髪の男に向かって言う。 「うう」  夜明がうめき声をあげて立ち上がる。 その体の腕は後ろにねじ曲がり、 足先が背中側を向いている。 「やだ。何てことしてくれるのよ。大切な兄さんの体を」  金髪の少女は余裕の表情を崩さず中年男を見る。
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