ハートビート

　山川アヤカに昼休みは長すぎる。
　澄み渡る空をぼんやり眺めながら、コンビニの総菜パンと新作の紅茶のペットボトルで済ます簡素な昼食は、ものの数分で終わってしまった。
　視線を手元に移す。
　親指で繰ってはいるが、実は真っ黒画面で当然動かない。
　昨夜は寝落ちしてしまった。
（今使っちゃうと、バッテリーが切れちゃう。）
　だから、耳につけているイヤホンもフェイクだ。
　けれど、その小さなブルートゥースは、張り巡らされたイバラとなり彼女を包み込み、覆い隠す。クラスメート達から我が身を守るマストアイテムだと頑なに信じているようだ。

　窓際一番後ろの彼女は、広すぎる教室の片隅で気配を消す。
　仕方なく窓の外に目をやる。桜はとっくに散っていた。けれど、街並みの更に向こうの山の木々からは強い生命力が萌黄色となって吹き零れていた。鮮烈ながら儚いこの季節独特の明媚なグリーンが彼女は好きだ。