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ところが、気配を消していたにもかかわらず、彼女に視線を向ける者がいる。
意外にもクラスのヒロイン的存在、来海アリスだ。いつも取り巻きの女子に囲まれている。新しいクラスになってひと月足らずで既にこの有様だ。
何の不自由もなく両親からの愛情をたっぷり受けて育ったであろう、愛らしく明るく澄んだ瞳を持つ彼女に、誰もが惹かれるのは当然のことだろう。好意を抱く輩はうじゃうじゃいるはずだ。
実はアヤカはこの視線に気づいていた。
と同時に非常に厄介だと感じていた。
おいそれと心の奥底に入り込まれるのはごめんだ。
素知らぬ振りでスマホを弄ぶ。
(だけど、なんで私なんか見てるの?)と不本意ながらアリスの事に無関心ではいられないのも確かだった。
「アリス、どうした?」
取り巻きが声を掛けた。
「えっ?べっ、別に…。」
ビクッとしてアリスは振り返り答えた。
「ねぇ、アリスのバッグチャーム、自分で作った?…男…の子?」
「あ、うん。そう。手作り。えと、私の憧れの人。似てないんだけど。」
「マジか。」
「えーかわいい!」
「自分で作るなんてすごいね!」
皆、口々に感想を述べる。
「…。そう、かな…?」
取り敢えず自分から注意が逸れ、アヤカはホッと胸をなでおろした。
(中学までは一人になるのが怖かったのに。今は人に声を掛けられるのが怖い。いや、正確にはその後うまく答えられるかが怖い。そしてどう思われるかが怖い。だったら…このままでいた方がいい。無理に仲良くならなくても、こうやって一人でいるのがどんなに気が楽か。昔の私に教えてあげたい。)
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