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不意にいつもと違う通知音が割り込む。
訝しげな表情から一転、何かに気づきハッと息を飲み、カバンから端末を取り出す。
手が震え、なかなか暗証番号を打てない。
!!
タイミング良くお気に入りの曲が流れ始める。
アップテンポの曲そのままに駆け出す。
美しい瞳が、普段には見られない程明るく大きく輝いていた。
家に辿り着くと鍵を開けるのももどかしく、薄暗い玄関も、ひっそり静まり返るリビングも走り抜け、慌ただしく自室へ転がり込む。
スマホをベットへ放り投げ、PCの電源を入れる。
立ち上がるまで待ちきれない。
耳の中ではまだ心地よい音が奏でられている。
小さな城の中で一人、ヒロトに合わせ大声で歌う。
誰も、誰一人想像もつかない彼女の姿である。
彼らのバンドのホームページを開く。
ニューアルバムのリリースが発表されていた。
既に告知されていたライブツアーで演じられる。
来る。
彼らがいよいよこの町にも来るのだ。
先程の通知音はそのチケットをこの手に掴み取った知らせであった。
彼女は身をよじらせ、ボーカルと一緒にシャウトした。
ライブなんて初めてだ。
この高ぶりは抑えられない。
(私の人生で、こんな心待ちにするような出来事がこれまであっただろうか。)
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