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相変わらずの日々も彼らのおかげで何とか乗り切れた。
緑深まる季節となり、ついに待ちに待ったこの日を迎えた。
母一人、子一人。
彼女は、ネグレクトとまではいかないが殆ど母親に関心を持たれずに育った。
今となっては、極度に人付き合いが苦手な母親の事だからと理解できる。子供などと言う得体の知れないものの扱い方がわからなかったのだろうと同情すらする。だがやはり、鬱積した、やり切れない想いは拭い去る事は難しい。
顔も滅多に合わせないから、ライブの参加も反対もされない。それどころか、いつ何処へ出かけたのかもわからないだろう。念のため、帰りが遅くなるとメッセージは入れておいた。返事は期待していない。
複雑な感情は奥底へ仕舞い込み、初めての化粧を薄く施し、おろしたての服を着て厚底の靴を履いた。
外へ出ると、焼けつく太陽がギラついている。
薄っすらと汗を浮かべ、ヘビーローテーションで鼓膜がすり減る程聴いた音をまとい、別世界へ誘われたまま会場へと急いだ。
鼓動が早くなる。何度もチケットを確認する。
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