電球おじさん

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  私が住んでいる住宅街はクリスマスシーズンになると家々がイルミネーションを庭先や塀に飾り付ける。自転車で10分ほど走ったところにある『吉川』と表札が出ている家は塀の前にベンチが置いてあった。そこを赤や緑の電球で飾りつけてるのだが、そこに光るおじさんが夕方になると座り始めるのだ。光るおじさんはクリスマスツリーに飾るような電球を体中に巻いてピカピカと光りながら正面を睨むように座る。正面は2階建てのコーポだ。8台くらい停められるであろう駐車場には車が置いてあった。コーポに住む人間は無関心なのかおじさんを注意することも物珍しそうに見ることすらないみたいだ。せまっ苦しい住宅街だが車がようやくすれ違うことが出来る道路がおじさんの家の前にある。座るためのベンチは白いペンキが塗ってあって、ところどころ錆ている。かなり古いベンチみたいだ。そう言えばおじさんは私がここを通学路にして通る中学時代から電球を巻いて座っていた。今は高校生になったので私はいつもその前を自転車で通り過ぎる。回り道をすることも出来るが学校が終れば家に少しでも早く着きたいし、おじさんに害がないことが分かっているからだ。  12月に入ってすぐにおじさんはベンチに座るようになった。赤や緑、白いライトがチカチカしている。この寒いのに風邪ひかないのかなあ。私は心配する。おじさんは濃紺のジャンバーの上にイルミネーションを付けている。寒そうだからカイロでも渡してあげたい。ついつい親切心がおこる。私はゆっくりとおじさんの前を走るようにした。それから一週間ほどしたとき私に話しかけてきた。 「君は浅井さんちの娘さんだろう」  大声で呼び止められる。 「はい」  私は少し怖くなった。自転車を停めおじさんを見る。電球がピカピカ光っていた。玄関には少し隙間が空いていてコードがうねうねと繋がっている。
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