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私は平穏を何より愛する。
つまらない人間なのかもしれないが、それでもいい。いつ破綻するかびくびくしているぐらいなら、ありふれていようが安定した日々を送りたい。
「今日はこのクラスに転校生が来ました」
新しい担任が私を紹介する。
中途半端な時期で不本意ではあったが、親の仕事の都合で私はこの学校に今日から編入する。
「八木夕子です。親の仕事の都合で転校してきました。よろしくお願いします」
明るく、けれどもはっちゃけ過ぎた印象は与えないように。この学校でもうまいことやっていきたい。
口角を上げて、教室を見回す。
すると、ある一点に私の目は釘付けになった。
最前列に座っている女子の顔が、私とあまりにもそっくりなのだ。
下がりめの眉、奥二重、唇にはリップが塗られているようだ。重そうなロングヘアや動きにくそうなロングスカートという服の趣味は私とはかけ離れていたが、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした彼女は、私の生き映しのようだった。
クラスメイトの視線も一気に私たちに集中するのを感じた。
「それじゃあ八木さんは……夕子さんって呼んでいいかしら、八木さんクラスに二人になっちゃったから。夕子さんはこの席に座ってね」
先生がそう言って、よく似た彼女の横の席を指示し、私はそこに座った。
こんなに顔が似た人間どうしが側にいて、本当にお互いの生活の邪魔にならないのか。新生活に一筋の不安がよぎった。
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