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朝子も夕子もそれぞれ家が学校から遠く、丁度よい時間に学校に着けるバスがないため、二人のクラスで朝一番に登校するのは二人のどちらかになっていた。
この日はどちらも同時に学校に着き、下駄箱で鉢合わせた。
「夕子おはよう」
朝子が笑顔で言った。そしてその笑みを貼り付けたまま肩にかけたトートバッグからナイフを引き抜き、夕子の腹にずぶりと突き立てた。
ナイフが人体に刺さっている場合、対象を生かしておきたいのならば、ナイフは刺したままにしておくべきである。ナイフが止血栓の役割を果たすからだ。
朝子は、痙攣する夕子に刺さったナイフをぐりぐりと押し込み、そして明確な意思を持って、それを、引き抜いた。
「かはッ、ごぼッ」夕子が口から血を吐いて倒れた。
「ごめんなさいね。もしかしたらあなたに罪はないのかもしれないけど、私の複製品がいるのが我慢ならなくて」
温度の感じられない瞳と声で、朝子が倒れた夕子を見下ろした。
朝子は、夕子にナイフを振り下ろす。何回も、何回も。
下駄箱の白い床は、どんどん赤い面積が増えていた。
ある瞬間、馬乗りになるような体勢で夕子をめった刺しにしていた朝子の動きが止まった。そのまま夕子の上に倒れこむ。
「家の麻酔、持ってきたんだよね」
種明かしをした夕子は、震える手で力なくポケットから手術用のメスを取り出し、彼女に覆いかぶさる朝子の頸動脈を後ろから切り裂いた。
この動作に残るすべての力を振り絞っていた夕子は、もう動くことはなかった。
朝子は、意識を手放すまでぼんやりと天井を見上げていた。
「「(お互いに自分じゃない自分の存在が忌わしかったんだろうな……やっぱり思考の根源は「私」だ)」」
思考が重なる。
二つの身体から溢れ出した遺伝子情報の海は混ざり合い、床の上で再びひとつに結びついた。
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