オリジナルとコピーの対面反応実験

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 私は面白い人生を送りたい。  すぐに飽きる安定なんて真っ平御免だ。変化に富んだ、スリリングな人生のほうが、同じ長さなら絶対に得に決まってる。  平凡な今の生活から、一刻も早く抜け出したくて仕方なかった。  「今日はこのクラスに転校生が来ました」  そんな思考に耽っていると、ホームルームでの担任の声が耳に入った。聞き流そうとしたが、「転校生」というワードに引っかかり、伏していた目を上げた。確かに、気付かなかったが私の真横の空いていた空間に、昨日まではなかった机が置かれていた。  今は初雪が降って、二学期も終わろうとしている頃だ。こんな中途半端な時期になんでまた。  そんなありふれた疑問は、転校生の顔を見るやいなや一瞬で吹き飛ばされた。  転校生の顔や背格好が、私とあまりにも瓜二つだったからだ。  やや下がった眉、奥二重の目、色つきのリップが塗られた唇。ベリーショートの髪やスポーツブランドのロゴが大きくあしらわれたパーカーなんかのファッションの趣味は私とはほぼ真逆だったが、教室の一列目からはっきりと見た彼女の姿かたちは、私を鏡に映したそのままだったのだ。  「八木夕子です、親の仕事の都合で転校してきました。よろしくお願いします」  平均より少し高い声に、極め付けに八木という名字。夕子という名前も私の「朝子」と対比の印象を受けた。  部屋中をぐるりと見回していた彼女の目も、私のところでぴたりと止まった。向こうも私と同じことを思ったのだろう。一瞬、息が止まったように見えた。 「それじゃあ八木さんは……夕子さんって呼んでいいかしら、八木さんクラスに二人になっちゃったから。夕子さんはこの席に座ってね」 先生がそう言って、私の横の席を指示し、夕子はそこに座った。 これは面白くなりそうだ。私の日常に、イレギュラーが投入された瞬間だった。
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