The hope in the shell

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「最近よくここに来てるわね。気に入った?」  彼女に連れられて僕は街に来ていた。先を進むとあの半球状のドームに出た。何もない深海の中で、街は白く、穏やかに佇んでいる。 「不思議ね。あなたはこの世界が嫌いなのに」  彼女が小さく笑う――――最初に感じた恐怖はなんだったのだろう。彼女は本当に……綺麗だ。意を決して、僕は彼女の正面に立った。その雰囲気を感じ取ったのか、彼女も真剣な面持ちになる。 「……僕は君たちが全く違う世界の生き物で、理解とか受け入れるとか、そんなこと出来ないって思ってた。この世界も。絶対おかしいって決めつけてた」  実際僕は拒絶した。彼らのことを野蛮で残酷な化け物だと思っていた。 「でもここで暮らしていくうちに、それは違うって気づいたんだ。君たちには君たちの文化が、生活がある。たまたま、それが僕らのものと大きく違うだけなんだって」  戸惑うことは多かったけど、彼女たちは決して僕を責めることはなかった。僕を、受け入れてくれた。違う世界から来た僕を。 「……ごめんなさい。僕はひどいことばかり言ってた。君たちにも、この世界にも」  もし、逆の状況だったら、どうなっただろうか? 彼女たちが地上に来ていたら、同じ事が起こっただろうか? 「地上の世界が、僕にとって一番いいと、絶対だと思い込んでた」  本当に残酷なのは、誰なのだろうか。 「でも、地上に帰りたいんでしょう?」  光から目を逸らしていたのは、『誰』なのだろうか。 「…………地上が恋しくないわけではない。それでも」  僕はおもむろに彼女を抱きしめた。 「僕は、ここにいたい」  その見開かれた目を見つめる。街の光を反射して煌めく、深く美しい黒。 「……この期に及んで虫がいいと思ってる。けど、お願いだ。ここに、いさせて。この世界で生きていきたい。この街で暮らしたい。君たちの隣で。……君の、隣で」  しばらく、彼女は何も言わなかった。その目が大きく揺れている。やがて彼女はゆっくりと瞬きをして、僕を見据えた。 「……ここは、あなたの理想の世界ではない。でも、あなたがいたいのなら、私はあなたを喜んで迎えるわ。……一緒に生きていきましょう。この、街で」  彼女が優しく笑った。街の温かい光が、僕ら2人を包み込んでいた。
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