The hope in the shell

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 目が覚めて、僕はとてつもなく腹が減っていることに気づいた。そういえば何も食べられていない。家に残っていた彼女の父親に聞けば、もうすぐ狩りに出ていた彼女が帰ってくると言う。 「しかし君、丁度いい所にきたね。点検を手伝ってくれないかい?」 「点検?」  彼に言われるままついていく。家の奥、僕の寝室の隣の倉庫のような場所にやってきた。……よくわからないガラクタやら鉄くずが詰め込まれている。そして微かにみしみし、という音が聞こえてきた。 「あぁー……やっぱり音がするくらいになっていたか」  どういう意味かわからず、彼の方を見ると、彼は倉庫の中を漁り始め、僕に何かヘルメットのようなものを渡してきた。 「君たち、人間が使っていたとされる古代の潜水用具らしいよ。彼らはエラがなかったらしいからね、こういうのを使って少しでも水の中にいられる時間を伸ばしていたらしい」  半球状のそれは、現代の技術より大分お粗末に見えたが、口の部分はゴムで出来ていて、かぶればきちっと首元に密着する。口元にある短いチューブは、どうやら酸素を補給するためのもののようだ。 「それをつけて、外に出て欲しい。んで僕と一緒にサンゴを取り除いて欲しいんだ」 「サンゴ?」  首がゴムで少し苦しいが、思わず聞き返してしまった。一体どういうことだ? 「僕らもよくわからないんだけど、ここらのサンゴは金属の上にも生えるんだよね。で、家の上にいっぱい生えちゃうと、重みで家が崩れちゃうんだ。だから毎日こうして取り除かないといけないんだよ」  みしみしといっていた音の原因はサンゴだったのか。僕は唖然としながらヘルメットを一旦外した。 「わかりました。……でもあの、服はどうすれば? 潜水服みたいのはないんですか?」  おずおずと、僕は1番大事な部分を聞いてみた。彼らは替えの服などもっていないことは自明だが……。 「潜水服? なんだいそれ。……あぁ、確かに君がつけているのは布だね。濡れると面倒だから取ればいいんじゃないかな? 裸でいる分には、どの入口にもついている送風口の風が吹き飛ばしてくれるはずだよ」  僕は愕然として彼を見つめた。そんなことしたくなかった。会ったばかりの他人の前で裸になるなんて。いくら男の彼の前でもそれはためらわれた。 「どうしてそんな顔をしているんだい? 地上の人たちにとって、裸になるのは良くないことなの? 大丈夫だよ。僕らは誰も気にしないから。ほら、行こう。でないと家が壊れちゃうよ」  彼は玄関に開いている、強い風が吹いている大口に足をかけた。僕は歯を食いしばりながら、1枚1枚服を脱ぎ捨てた。羞恥と怒りで狂ってしまいそうだった。けれどそれを封じ込めるように、僕はあの粗末なヘルメットをかぶって海の中へと飛び込んだ。
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