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手記を閉じる。……もう半分近く読んだのか。いつもの日課をこなし、彼女の父親に解読結果を報告する。
「うんうん。今日の部分も興味深いね」
満足そうに頷いた。
「いやぁ、君がいるお陰で解読が捗るよ。本当にありがとう」
彼は満面の笑みを浮かべた。僕はじんわりと体の中心が暖かくなるのを感じながらもふと思った。地上の世界でここまで感謝されたことはあっただろうか。いつも通り仕事をして、このように感謝されることが。彼はいつも心の底から僕に感謝してくれる。
「そんなに言うほどでもないと思いますけど……僕にとってはそんな重労働でもないですし」
僕が少しはにかむと、彼は優しく首を振った。
「そんなことないよ。君の存在が僕の助けになっているんだ。君が僕の仕事を手伝ってくれるから、僕は楽ができるし、面白いことも知れる。それってすごいことでしょ? 君は僕を喜ばせてくれるんだ。だから僕は君に『ありがとう』を言わなくちゃいけないんだ。君は僕のために一番大事なものを使ってくれたんだから」
「一番大事なものって?」
「……君の時間。君の命さ」
こともなくそう言って、彼はまたにっこりと微笑んだ。仕事も終わったんだし、遊びに行く? と聞く彼に少し待ってと返して、一旦自分の部屋に戻った。
僕はゆっくりと柱の傍まで歩き、そしておもむろに、今まで付けてきた印を全て消した。
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