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3.遠い記憶・中編
中学に上がった俺は、部活にも入らず、ほぼ毎日、自慰行為に耽っていた。一日に5回することもあった。ティッシュの消費量が多すぎて、怪しまれないように自分の小遣いで補填せざるを得なかった。
女はどうか知らんけど、思春期男子なら当たり前の日常だ。俺の平凡さは、こういうところにも如実に表れている。
むさ苦しい運動部で汗と恥をかかずに、屋内でマスばかりかいていたせいで、俺の肌は白くなめらかなままだった。髪も肩近くまで伸ばしていた。
学校からの帰り道、ジャージ茶髪のヤンキーに絡まれた。テスト期間中の平日真昼間、職業不詳のクズだ。
「おめーオンナか?」
その第一声を皮切りに、んだこらぁやんのかあぁ上等じゃボケェ云々の暑苦しいコミュニケーションを交わしてしまったが、内心では嬉しかった。あの馬鹿でうるさくて不潔な男よりも、俺は確実に美しい。
声変わり、悲しかった。大空を舞う雲雀が翼を奪われたような喪失感が俺を苛んだ。人に自分の声を聴かれたくなくて、寡黙になった。それは合コンで出会った女子中生に声カッコいいねと褒められるまで続いた。
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