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「神社への階段、数えて上って百段だったら、願いが叶うんだって」
誰が言い出したのか、どこから広まったのかわからない噂。
噂というより、子どものかわいい不思議話。きっと、学校の七不思議みたいな、多分そういうもの。
だから、そんなものを信じているわけではないけれど。でも、街灯の光すら遠慮してそうな薄暗さに沈む階段を前にしたら、ちょっといたずら心がはたらいた。一、と唱えて足を踏み出せば、ゆっくりと一段一段、数えて上っていく。
十。
闇に満ちた冷たさに、首に巻いたマフラーをギュッと握る。
五十。
勢いよく吸い込んだ空気が冷たくて、喉も体も凍りそうだ。
八十。
続く階段。同じ景色。暗い暗いここには、こんな日の、こんな時間のここには、私が一人。
九十。
勢いよく耳元をかすめた風に、思わず足を止めて首をすくめる。そうしたら、踏み出す足と唱えた数がわからなくなって、ちょっとがっかりしながら適当に残りの段を踏んだ。
「よいしょ」
結局、百だったんだか違ったんだかわからないまま、私は階段の終着点に立った。目の前に広がるのは、ただただ闇。こんな小さな神社には申し訳程度の街灯しかなくて、きっと危ないんだろうなあなんて、他人事みたいに思う。
あれ。
拝殿だったか、社だったか、正しい名称なんてわからないけれど、建物についたちょっとだけの階段の上に何か光るものがあった。
恐る恐る近づいてみる。
それはこの空間で一番明るく光を放っている、白と赤の小さな物体。
サンタクロース?
じーっと見る。サンタクロースの目はどこを見ているのだろう。
雑貨屋さんにでもありそうな、光るサンタクロースの置物。
どうして、こんなところに?
それなりに近づいたところで、何だか怖くなってきて、今度はそーっとあとずさり。
なぜだか目が離せなくて、ゆっくりゆっくり離れてみる。
どうしよ、動いたらどうしよ、やだ、なんか怖い怖い。
チカッ、とサンタクロースが瞬いて。
チカチカチカ。
え、なになになになに、やだやだやだやだ。
不気味で怖くて思いっきり足を後ろに踏み出したら、
ドン。
背中に感じたのは衝撃で。
「きゃあああああああああ」
「うわあああああああああ」
私のあげた悲鳴とともに、私じゃない声が響きました。
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