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「今日から、この我が校に転校してきた向井田涼君です」
将校のような制服を着て髭を生やした担任の先生が、新しいクラスメイトに向けて紹介してくれた。
「向井田です。よろしくお願い致します」
簡単に挨拶して頭を下げた。
いかにも貴族らしい高慢そうなクラスメイトたちは、目を爛々と輝かせて、こちらをやたらと凝視してきた。
すぐに新しき自分の席につき、それから授業を受けた。
数学の授業だったが、しばらくして教師が黒板に書いた数式に間違いがあることに気づいたものの、何も言わずにおくことにした。
休み時間。
話しかけてくる生徒はいない。
遠巻きにして、離れた場所からこちらをチラ見しては何か噂している、ゴージャスなドレスを纏い、ひたすら扇子をあおいでいる女生徒達の一群が散見された。
お昼に、晩餐会に出てきそうな、高級リストランテのランチ並みの給食を食べてから、昼休みに随分と洗練されたアール・デコ調のトイレに行くと、中に入った途端、数名の野蛮で柄の悪そうな生徒がついて来た。
「転校生って君ですか?」
「はい」
「名前は?」
「向井田です。よろしくお願い致します」
「ふーん。女子共がワサワサ騒ぐわけだ。中々のイケメン君じゃないですか」
数名の中で一番背が高い上に、高慢さも群を抜いている生徒がそう言いながら、いきなりこちらの腹部にボディブローを打ち込もうとしてきたので、さっさと体をかわした。
さすがは貴族の寄宿校。
まだまだこういう古風な洗礼の風習が残っているらしい。
「何避けてるんですか?」
背の高い生徒はニヤニヤ笑いながら、今度は露骨に顔面に拳を突き出してきたので、軽く手の平で受け止めた。
「貴様!」
相手は声を荒げたが、突き出した拳を中々引っ込めないので、仕方なく手の平で包んだまま捻りを効かせた。
「うぎゃー、痛い!」
相手はさらに大声を出したが、今度は悲鳴だった。
手を放して欲しそうだったのでさっさと放すと、相手はバランスを崩して地面に転がった。
「貴様!ふざけおって!」
後ろにいた、似たように野蛮な生徒が怒鳴り声を上げて近寄ってきた。
またこちらの顔面に拳を突き出してきたが、面倒なので腕の関節を外した。
「ギャー!」
だが、その様子を見て、次に殴りかかろうとしていた生徒が後ずさりし始めた。
急に目に恐怖の色を浮かべて、こちらをチラチラ見ている。
それでも最初に拳を突き出してきた背の高い生徒は、また起き上がって、殴りかかってきた。
もうすぐ昼休みの時間は終わり。
時間がないので、突き出してきた相手の腕を掴んで、そのまま投げ飛ばした。
生徒は大きな身体を宙に浮かべたが、すぐに地面に叩きつけられて、気絶した。
「あの、もうすぐお昼休みも終わりなんで。よろしいですか?」
呆然と突っ立っていた残りの生徒たちは、こちらがそう言うと、後ずさりしながら「ハ、ハイ」と怖々言って、出口に通してくれた。
帰り際に、さっき関節を外した生徒の腕を元に戻して、そのままトイレを出たが、生徒たちはその後ついて来なかった。
教室に戻ると、ちょうど昼休みは終わりを迎えていて、振舞われたアフタヌーンティーを飲んだ後、すぐに授業になった。
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