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巨大な城は、むせ返るほどの妖しい熱気に包まれていた。 旧青木家那須別邸のモダンな建築様式を出来る限り模倣した、どこか模造品のいかがわしさに満ち溢れたニュー貴族の城。 その異様な妖奇は、この一角に充満しきっていた。 巨大な城の門の前には、大柄な体躯の、鉄仮面と鎧を身につけた門番が立ち並び、本日の仮面の宴のために入城する貴族たちを検問していた。 タキシードや艶やかでゴージャスなドレスを着こなした紳士淑女たちは、その顔に様々なケバケバしい仮面を被って入城していく。 城の中では仮面舞踏会が盛大に繰り広げられていたが、舞台の上では不気味に身体を歪めるアクロバティックな舞踏のパフォーマンスが演じられている。 それは男女二人のまるで性交のような身体的舞踏に徐々に人数が加わっていき、まるで酒池肉林の男女の交歓の様相にさらに妖しく転じていく禁断のパフォーマンスであった。 そのエロティックなパフォーマンスに煽られて、貴族の紳士淑女による仮面舞踏会も、徐々に退廃的な妖しい熱気を帯びていくばかりであった。 しばらくして、ピエロの衣裳を纏った給仕が大きな皿に鉄製の蓋をしたものを持って、中央にある巨大なテーブルまでやって来たが、仮面舞踏会に酔い痴れる貴族たちはそのことにまるで気がつかない。 だが、ピエロが皿を巨大なテーブルの上に置き、鉄の蓋を取り外した瞬間、貴族たちから異様な歓声が上がった。 皿の上には、人間の生首が置かれていたからだ。 「ブラボー!」 至るところで湧き上がる、貴族の紳士淑女たちによる快哉の歓声と、シャンパンによる乾杯の音。 その仮面の顔と顔は、ドス黒く醜い悦びに歪んだ、グロテスクな快楽に満ち溢れた表層であった。 仮面舞踏会が行われている巨大な城には、広大な地下室があり、そこには古めかしい首斬台が置かれている。 首斬台には、今まだ首を切断されたばかりの胴体が、折り重なって放置されていた。 首斬台の周辺には夥しい赤い血が撒き散らかされていたが、鉄仮面と鎧を纏った、門番と同じ出で立ちの者たちは、それを気にする風もなく、愉しそうに哄笑を上げながらシャンパンを酌み交わしている。 この広大な地下室の首斬台の向こうには、冷厳な厚い壁によって封じられた収容所があった。 そこには、数多くの無辜の民が強制的に収容されている。 首斬台の上で、横たわっているのも、かってはこの地下室の収容所に入れられていた民の一人の胴体であった。
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