0人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺だ。今、面接希望者のリストを確認してたんだが、今日、小牧ジロウって男が面接に来なかったか?」
「あぁ、小牧ジロウならさっき終わりましたよ。コミュ力皆無でまったく話にならなかったから即落としましたけど」
「バカ野郎ッ!なんで落とすんだよ!俺たちが再起できる最後のチャンスだったのに!」
「どういうことですか……?」
「小牧ジロウ、どこかで見たことのある名前だと思って調べたんだ。そしたら案の定。数年前にパティシエの世界大会で2位を獲った男だったんだよ!」
「えっ?!」
「桁違いのスキルと新作を考える能力を合わせ持った、まさに俺たちが求めてたスーパーマンだ。なのにお前はやすやすと落とすなんて……!コミュ力がどうとか言う前にもっと見抜かないといけないところがあるだろ、このタコッ!」
ツーツーツー。
加賀美は切れたケータイを耳に当てたまま、その場にがくんと膝をついた。
「お、俺としたことが……ーー」
一か月後。
ルビークリームはあえなく4店舗とも閉店し、会社自体も倒産した。
一方、小牧ジロウは肩書きに飛びつく企業に嫌気がさして、自らの素性を明かさないまま面接を受け続けていたのだが、面接11連敗目にしてようやく心優しい老夫婦が営む洋菓子店に拾われた。そしてその店を今にも潰れそうな廃れた状態から一転、連日大行列ができるほどの繁盛店に変貌させたのであった。
「ジロウくんがウチに来てくれて本当によかったわ。まるでスーパーマンね」
閉店後、店の片付けをしていると、店主の奥さんが声をかけてきた。小牧は照れくさそうに少し俯いたあと、すぐにまっすぐ前を向いた。
「はい、僕はスーパーマンです」
以前より背筋が伸びて目には力がある。その顔は自信に満ち溢れていた。小牧は随分と成長した。あの時面接中には言えなかった言葉を、ようやく胸を張って言えるようになったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!