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……ウィルの手元には、冷たくなったマリの亡骸だけがある。
いつの間にか出ていた月が照らしだすマリの顔は、最初出会ったときと同じ、いやそれ以上に美しく見えた。
ウィルはマリから修道服を脱がし、矢を抜いた。
ウィルはそのとき初めて、マリが少女ではなく少年だったことに気がついた。
「嘘ばっかりじゃないか」
ウィルは思わずつぶやいた。その体には、服の上からではわからない沢山の古傷がある。マリが、いやこの少年は一体、どんな生活を強いられていたのだろうか。
マリの体にぽつぽつと涙が落ちた。
マリの体を汚してはいけない。
ウィルは咄嗟に顔をそらした。
ぐしぐしと目から涙を拭い、ウィルはマリへと向き合った。
「いただきます」
ウィルはマリを綺麗に平らげた。髪の毛から足の指先まで。
ウィルはその血の匂いを嗅ぎながら、あることを思い出していた。それはあのワインの匂い。祝福の日の後、生き残った司祭や領主が話す口から漂ってきた匂い。
そしてあの日、グリドの街の門で嗅いだ匂いだった。
彼らはきっとマリの血で、祝福という災いを避けていたのだろう。
「マリ、ボクは君と僕をこんな風に扱った奴らと教会を、許しておくことはできない。
たとえボクが醜いモンスターであろうとも、人間として生きたい。マリ、それを君に見ていて欲しいんだ」
見知らぬ土地で一人、ウィルは涙を拭うこともしないまま立ち上がった。
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