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空気孔に見えるコンクリートの高い塔、そこに彼はいた。
面会は許されず、唯一会えるのは斎藤のみ。
診察しようとする精神科医を何人も襲い、誰も彼に近づかなくなった。感情の起伏が激しくおとなしく医師の言うことを聞く時もあるが突然襲いかかり職員に取り押さえられる。落ち着かせるために薬を投与しても体質なのかあまり効果がなく、本人も落胆している。レイなりに治療する意思はあるのだが突然豹変する彼を恐れて医師もだんだん近づかなくなってしまった。
何故かレイは斎藤にだけ心を開き、普通に対応している。その時だけは頭がイカれた殺人鬼には見えなかった。
「近藤、銃は持ってきたか」
「はい。でもこれを使うんですか?」
「殺すなよ。威嚇射撃だけだ。だが自分の命は自分で守ってくれ。何が起きるか俺もわからない」
「そんな奴、何で生かしておくんですかね」
廊下を歩きながら近藤が問う。
斎藤の歩みが止まった。
「あいつは天才だからだ」
それは建前で本当の理由は別にある。
俺はレイの事が好きで、レイは俺のことが好き。
その真実を同僚に話す勇気はなかった。
「着いたぞ」
斎藤は自分の銃を確認して厳重なセキュリテイのドアを開けた。
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