1/7
前へ
/57ページ
次へ

押収した大量の招き猫を鑑識にまわして斎藤と近藤はTVをみながら休憩していた。 画面に映るニュースには視聴者提供の動画が繰り返し流される。 元警察関係者と名乗る連中が物知り顔で憶測をしゃべり、コメンテーターは適当な考えを垂れ流す。そして何度も流される凄惨な事件の様子と「斎藤拓海」の顔写真。 今は斎藤のほうが外を歩きにくい。警察への批判は全て斎藤に集中し、Mは一部には英雄視する声もあった。 ただ生きているだけの人種にとってこんな事件は退屈しのぎにはもってこいの娯楽だった。刹那的に生き、何も持たない世代は潜在的にこう思っている。 世界が終わればいい。 ネットでは軍事マニアたちがMが使用した銃の種類や入手ルートなど自分の持てる知識を披露して満足している。自分には出来ない事をMがやってみせた事への称賛や批判、Mについて人物像の考察。スレッドは雑草が生えるように乱立し騒ぎが鎮静する気配はない。 その中で吊るし上げられたのが斎藤だった。 TVからは捜査方法の批判を連日流され、国民からは敵としてネットに書き込みされる。組事務所は面子を潰されたと激高し警察は威信をかけて逮捕すると息巻く。勢いが増すほど斎藤に刺さる視線が鋭くなる。 招き猫に関する結果は、全国で売られているものでおそらく仕事先でMが買って集めたものだろうという事だった。 嘲笑ってるMが見えるような気がした。 「Mは今どこにいるんでしょうね」 近藤は飲み終わったコーヒー缶を捨てる。 「国外に脱出したかもな。これだけ自分の顔が全国に流れてるんだ。身動き取れないだろう」 「自分が動かなくても仲間がいるんじゃ?Kも12人いたし、Mにも何人かいるでしょう」 「それも全く掴めないとはな・・・。情けない」 斎藤はため息をつくしかない。 繰り返し流れるMの姿。 楽しそうに自分の名前を呼ぶその姿を見て、レイが生き返ったような錯覚がして体の奥底が煮えたぎるような感覚をおぼえた。 こんな時レイがいれば・・・ 「レイはKチームのことは知っていてもMについては詳しくなかったんじゃないですかね」 近藤の言葉に、自分の心が読まれたのかと思って一瞬たじろいた。 「死人に口なし、か」 努めて他人事のように斎藤が言う。 今更ながらMは全国指名手配された。そんな事しなくても、もう全国に顔と犯行を知られている。そして実質できることはタレコミを待つくらいで手のうちようがない。事件を未然に防ぐのではなく、起きてから動くのが警察という組織の中で自分の立場がもどかしかった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加