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斎藤は毎日画面を見つめる日々が続いた。 いつMが出てくるかわからない。もしかしたら動画配信はあの1度だけでしばらくはどこかに潜伏するかもしれないが、ネットさえつながっていれば動画投稿や配信はできる。 その間にMの通院歴を調べてみた。彼は病気を理由に仕事を辞めている。社長に聞くと命に関わる病気で手術が必要で長期入院するからと診断書を提出してきたと言った。 見せてもらった診断書は脳腫瘍で入院先は有名な大学病院だった。 担当医は出来る限りのことはしたが命の保証は出来ない。毎月検査を受けるように言ったが退院後一度も来なかったそうだ。最近は癌告知も本人にあっさりする。医師も湧いてくる患者をさばくのに多忙で大袈裟にいうなら天気もわからない時があるらしい。 これだけ連日ニュースで自分の患者が報道されていても関心がなく気がつきもしなかった。ただ看護師たちはイケメンの患者として密かに人気で、ニュースは知っていたが特に警察に通報することはなかった。仕事が忙しくほかの事には無関心で、話題にはしていた程度。 一番驚いたのは両親が来なかったことだ。手術には承諾書など身内が署名・捺印しなければいけない書類がたくさんある。その手続きにすら姿を見せなかった。たまたま従兄弟が側にいたから何とか治療を受けられたが放置されていたら死んでいただろう。息子が死んでも関心がない親。従兄弟いわく仲は良くも悪くもない、普通の家族らしい。 おかしいことは何もない。ただ少しずつズレている。何もしなくても罪にはならない。通報する義務はないし、息子を放置しても有罪ではない。人道的に責められるかもしれないが気にしなければ何も起きていないのと同じだ。 誰も悪いことはしていない一般市民。それが罪になるわけではない。 レイがいた部屋のように、真っ白で無機質な社会。 少しずつ沈んでいく大地の歪のような世の中。小さな割れ目が少しずつ大きくなってエネルギーを放出した時地上は揺れて壊れていく。 Mは意図的に時間を早めてこの国を、世界を破滅に導こうとしているのか。 飛び去る前のKの言葉がそれを裏付けている気がした。
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