3/7
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
今日も収穫がなく、斎藤は家路についた。 途中コンビニに立ち寄り、ビール数本と適当なつまみを買う。 Mと同じ、職場と家の往復。毎日その繰り返しでそれを疑うこともなく生きてきた。 独身の一人暮らしの男なんてだいたい同じような生活だろう。斎藤も変わらない。クルマも家も興味はないし、外へ飲みにいくのも滅多にない。家に着いたらネットで動画でも見ながら寝るまで時間をつぶすだけ。それに疑問すら感じない。 ただ違うことは斎藤の仕事は少し特殊だった。 背後から誰かつけてくる。普段通る道を変えて遠回りして部屋に向かったが気配は一定の距離を置いて離れない。 勤務時間外なので銃は持っていなかった。 斎藤はため息をついた。相手が誰かは想像がつく。Kだとしたら足音でわかるし彼女の接触方法はスマホが多い。 「夜道はあ、男でも気をつけないとねえ~」 背後から声をかけられゆっくり振り返るとコートにマフラー姿のMが銃を構えてはずむような足取りですぐ近くまで来ていた。 「お前住宅街で発砲する気か?」 「だからこそ、だよ。試しに撃ってみよっか?誰も出てこないから」 銃口を斎藤の腹部に押し付けて「変な真似しないでそのまま部屋まで行け」 市民に犠牲者出したくないならね、と言って人懐っこい笑顔で笑った。肩をつかんで向きを変えて今度は背中に銃をつきつける。 「エレベーターは使わないで階段で行ってね」 防犯カメラを避けるためだろう。ふざけた口調をしながらも警戒はおこたらない。当たり前だがこの男は指名手配中の殺人犯だ。 「ね。拓海さん。お願い」 銃がなかったら殴り倒してやりたいと思ったが、Mの顔を見たら躊躇してしまうに違いない。 レイの顔がそこにある限り。 『もう言うこと聞かない!』 情緒不安定ですぐ機嫌をそこねるレイをよくなだめたものだった。 Mだったらどんな反応をするのだろうか。 頭の中で二人が交錯した。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!