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「寒いから中に入れてよ。いろいろ聞きたいんでしょ?」 いつの間にか自分の部屋の前まで来ていた。鍵を取り出しドアを開ける。 そこで気合いを入れた。 二人が入ってドアが閉まるのを確認してから一瞬でMの腕をつかみ銃を奪って銃口を向けた。 「・・・!?」 軽さに違和感を感じている隙にMが落ちたコンビニ袋を拾って 「それオモチャ。お邪魔しまーす」 コートを脱ぎながら勝手に部屋に入り照明をつけてエアコンのスイッチもつけた。 それはモデルガンで実銃とは重さが全然違う。部屋の暗さがアダになったとはいえ警察官としては手痛いミスだった。 「これ落としたから今開けるとブシャーってなるよ」 テーブルの上にコトコト音をたてながら慎重にビール缶を並べている。どこまでも食えない男だと思いながらついレイとくらべてしまう。 顔も仕草も似ている。違うのは雰囲気でMのほうが大人っぽい。レイはどこまでも子どもで厳しい表情をしてもどうしても幼さが消えなかった。 「お前病気は大丈夫なのか」 「町田一樹と俺は他人の空似だよ。世の中自分に似てる人が3人いるらしいけど本当なんだね」 斎藤の問いには答えずレイと自分の関係性を言った。目をあわせずこちらを見るその視線は、仄暗い光を帯びて恐ろしく重苦しい。 それより部屋に入る前から頭をおさえているのが気になった。 「ここに何しに来た。自首でもする気になったか?」 靴も脱がず腕を組んで斎藤は玄関から動かなかった。職業柄格闘技を習得している。これは自力で捕えるしかない。もしくはここに閉じ込めて応援を呼ぶか。 「これ見て」 Mは自分のスマホを出してYouTube画面にした。 「どうせ捜査に進展ないんでしょ?協力しにきてあげたんだから俺の言うこと聞いたら?」 「ここでお前を逮捕すればすむ」 「それじゃ時間がないよー」 「どういう意味だ」 「だからこれ見てって」 ドアをダブルロックして部屋に入りMのとなりに立つ。 「そこから見える?」 振り返った顔の向こうに小さな画面がありMが投稿したと思われる動画のサムネイルが映った。 一万円札を扇形に開いて笑っているMの顔に字幕がかぶる。 「お金を空からバラまいてみた」と書いてあるそれはすでに100万回再生されていた。 思わず座り込んで覗き込む。 「金には敏感だ」 斎藤の態度に呆れたように鼻で笑う。 『寒い所からこんにちはー!!』 灰色の空と海の境界線が混ざった風景を背にしてMが叫んでいた。 そこで一旦停止する。 「ビール飲めば?ぬるくなるよ」 「お前を前にしてそんな事できるか」 「勤務時間外じゃん。1本や2本じゃそんなに酔わないでしょ?俺にもちょうだい」 凶悪犯罪者と部屋飲みするという、見つかったら謹慎処分じゃ済まない状況で、Mの動画は始まった。 頭を抱えている姿に嫌な予感がした。
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