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鎮魂
Mは病院に搬送されたが間に合わなかった。
院内でドクターブルーがかかり脳の圧力を下げる処置の途中で心停止、医師による死亡が確認された。
斎藤は身辺を徹底的に洗われたがMとつながるものは見つからず、医師には血圧が上がるアルコールを飲ませたことを批難され、犯人を逃した失態の責任として結局謹慎処分になった。
家宅捜索された後の部屋で、押収をまぬがれたレイの骨壷をぼんやり眺めながら、花が枯れていることに気がついた。後で買いに行こうと思いつつ体は重い。
Mの遺体は両親が引き取った。付き添っていたMの従兄弟が「今さら何だよ!」と叫び取り押さえられる事態もあったが何もなかったかのように二人は出ていった。
生前は会いにも来ず入院手続き等も従兄弟まかせで死ぬも生きるも勝手とばかり距離を取っていた親が遺体だけ取りに来た神経がわからない。
「・・・生命保険ですよ」
Mに『兄さん』と呼ばれていた青年が力なく呟いた。
あの親は金のために息子の死を待っていたのか。
「こんなに早く逝ってしまうなら猫と生活させてあげればよかった。後は全部俺が責任持つからって何度も言ったのに」
子どもの命より金を選んだ両親。「金で人は動く」と何度も言っていたM。
怒りを潰すかのように青年は拳を握りしめて、声を殺して泣いていた。
法律的にはMだけが有罪になる。それだけでは納得できないあの後味の悪さを
また思い知る。
どこでKと知り合ったのかわからないが、余命を悟り絶望した彼は全てを道連れにしようとした。またネットで賛否両論をめぐる不毛な論争が始まると思うが所詮他人事だ。「善良な市民」はすぐに飽きて新しい刺激を求める。
握った拳から流れる血が「殺してやる」と叫んでいるような気がして、それがMの断末魔に重なり青年の悲しみの深さを感じさせた。
ーお前の罪は、自分のために泣いてくれる人がいる事を忘れたことだけなんだぞ。
そう思う斎藤をまた「偽善者」と呼ぶのだろうか。もうわからない。
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