鎮魂

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仕事に行くこともなく、昼は退屈で今まで見たこともなかった情報番組や映画で時間を潰すことが多くなった。 いつもの変わらない生活の中で唯一の変化は花を買うことだった。こだわりはなかったが仏花は古い感じがしたので、店頭にある綺麗なものを買ってコンビニに寄って帰る。 部屋のソファに座って昼からビールを飲みレイの事を思い出す。 人間の首を切り落として集める凶悪犯罪者とマークし出した時、写真に写る青年は自分と同じ年齢のわりに幼くあどけない顔をしていた。 首の骨を集めるのはわかったが体はどうしたと聞くと、知り合いの産廃業者に捨ててもらっていたとあっさりと言った。 「お酒飲んでたら声かけてきた。僕のことは知ってたみたい。最初は脅迫して捨て駒にでも使おうと思ってたらしいけど、気がついたら愛人みたいになってた。よくわかんないけど」 「そいつは男か?」 「うん。元暴力団だからデータあるんじゃない?でも証拠はないと思う。ゴミとして集積場に放り込めば高熱で燃えてわかんないらしいよ。自分の処理場に混ぜてもぐちゃぐちゃになってみつからないんだって」 簡単に自分の犯行を話す神経が理解できなかったが一番わかっていないのはレイ本人だった。 殺す理由も、首を集める趣味もないと言う。気がつくと目の前に死体が転がっていてその間の記憶が全くない。処理に困って彼に連絡を取り死体を引き取ってもらい、血まみれの体をシャワーで流している時体を弄ばれていた。それにも特に抵抗はなかったらしい。 「そんなものなのかなあって。女の人にはモテなかった。それを利用してるってわけでもないけど、言わなくても勝手に助けてくれるから」 確かに綺麗な顔をしていてあざとい仕草もなく自然にふるまうレイに引き込まれてしまうのは理解できなくもない。現に自分もそうだったのだから。 犯行時の記憶がなく、収集癖もないことから多重人格なのではないかと思い精神科医に鑑定を依頼したが、怒りの沸点が異常に低く少しの刺激で激高する性格で今風に表現すると「キレたらやばい奴」、記憶が無くなるほど攻撃的でアドレナリンの異常分泌かどうか血液検査をしたかったが 「そんなに都合よく怒れないよ」 困った顔をして斎藤に助けを求める。試しにお前は死刑になるだろうなと挑発してみたが 「斎藤さんに言われてもあんまりねー」 その表情がまた斎藤に甘く突き刺さるのだった。
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