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「余裕だな。今どこだ」
『これで最後になると思うと不思議な気持ちになるわ』
「お前は全国指名手配されてるんだ。そのうち会える」
斎藤は音に集中する。
車から話しているような感じがした。
「内輪もめが終わってこれからどうするんだ。この国の世直しでもするのか?」
『悩みは解決に努力するより捨てたほうが早い』
「じゃあ隠居か。いい身分だな」
『レイを抱いた?』
唐突にKが話を変えた。
「そんな事するわけないだろう」
『あの子は待ってたのに卑怯者ね。利用したら捨てるだけ。嫌な男』
「俺は聖人君子じゃない。それに相手は殺人犯だぞ。どんな尋問方法を使っても事件解決のためだ」
わかっている。それがレイへの想いを隠すための大義名分なのは。
『問題に正面から向き合わないから私を捕まえられないっていい加減気がついたら?まわりを傷つける中途半端な男。いますぐ殺してやりたいわ。でも』
Kは一呼吸置いて
『レイが止めるからやめてあげる。次に会う時があったら』
「・・・」
『少しはいい男になっててね』
そこで通話が途切れた。
「お前が言う立場かよ・・・」
自分の中にある泥のような感情を無造作にかき回された気がした。
確かに最初はレイを利用した。自覚がある分だけ羞恥が襲う。
レイは俺を好きで、俺はレイが好きだった。
「斎藤さん!」
近藤が追いついた。何か言っているが頭に入ってこない。
花を買って帰ろう。今はそれしか考えていなかった。
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