そして、二人

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 スマホのバイブ音がする。錬さんのスマホの音かなとチラッと錬さんを見上げるけど、錬さんは無反応だ。  着信を無視する気かな?  確かにタイミング悪いけど。 「電話、出ないでいいんですか?」 「今、それを言うか?」  キスされて、押し倒されてたけど。 「今日はお休みですから、続きは電話の後でいいです。錬さんあての電話が気になります」  錬さんは渋々スマホを手に取って、画面を見た。「あっ、柏木だ」と言って、顔をしかめて電話に出た。 「ごめん。悪かった…」  何だか謝ってる。 「ホテル代は俺が出すから、どこかに泊まってくれ。今、取り込み中なんだ」  取り込み中って、柏木さんが困ってるみたいなのに…しかも錬さんのせいみたいなのに…冷たくないかな?僕は錬さんのスマホを取り上げる。 「叶芽です。今、うちに来てください。部屋は余ってます」 「えっ、いいんですか?」 「事情は分かりませんが、僕の家ですので遠慮なくどうぞ。柏木さんなら大歓迎です」 「取り込み中ではないんですか?」 「僕は特に取り込み中ではありませんから、大丈夫です」  柏木さんは恐縮していたけど、本当に困っていたみたいで、タクシーで来るそうだ。 「叶芽さん、お言葉に甘えまして、すみません。お世話になります。手土産も持たずに、ごめんなさい」  柏木さんは、冷静な人だと思ってたけど、今日は少し慌ててて、興奮している。早口で、でも疲れてるみたい。 「いいんです。僕が誘ったんですから、気にしないでください」  リビングのソファーを座ってもらった。 「社長に、報告したいことがあります」 「僕は席を外します」 「プライベートなことですし、叶芽さんもよろしければ、ぜひ聞いてください」  お茶をいれてから、しばらく2階にいようかと思ったら、柏木さんに引き止められた。 「はい」  よくわからないけど、柏木さんが聞いて欲しそうだったから、了承する。 「今日、社長がαの友達を紹介すると言うから、私は特に会いたくもなかったんですが、社長の顔を潰してもいけないと思って会ってきたんです。 酷い目にあいました。何ですかあの人?どうしてあの人を私に紹介したんですか?」 「アイツは大学時代からの友達だ。前にうちの会社に来たことがあっただろ。そのとき柏木を見かけて気に入ったらしい。紹介しろって言われてたんだ。 アイツは銀行員で、親が会社やってるし、モテるし、いいと思うんだけどな」 「会社はやめて、今すぐ番になれって言われましたけど、嫌だったのではっきり断りました。でも強引にホテルに連れ込まれそうになりましたけど!家に閉じこめたいって言われました。逃げようとしてもしつこくついてくるんです!私は一人暮らしだし、怖くて家に帰れません」 「柏木がよっぽど気にいったんだな。良かったじゃないか」 「「よくありません」」  柏木さんと声がハモってしまった。目を合わせて笑う。 「Ωの気持ちは無視ですか?私が仕事を大切にしてるって社長もご存知ですよね」 「それは知ってるし、柏木には仕事は続けて欲しい」 「社長は、好きな人が出来たらその人の家に住んじゃうくらい常識外れな人ですからね。それにαの社長には、Ωの気持ちはわかりません」 「僕は、柏木さんの気持ちが分かります。体を求めるだけの関係にはなりたくないです。 Ωの家にαが居候するって常識外れだと思いますが、受け入れた僕も常識外れみたいで…」 「申し訳ありません。叶芽さんに対しては悪い気持ちは、全くありません」 「悪かった。アイツには柏木は諦めろって電話しておく」  錬さんは部屋に行った。
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