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カミナリ小僧がやってきた
夏休みも終わりに近づき、そろそろ宿題に取り掛からなきゃと机に向かったときだ。
「ゴロゴロピシャーン!」
空が光ると同時に大きな音が鳴り響いた。
思わず首をすくめてから、窓の外をそっと見る。真っ黒な雲で覆われた空から大粒の雨が降ってきた。そうだ。洗濯物を取り込むようお母さんに言われていたっけ。
急いで階段を駆け下りリビングを通り庭に出た。びしょ濡れになりながらも全部の洗濯物を取り入れて一息ついた。
そんな僕の視界の端になにやら動くものが映った。なんだろうとそちらを見ると、窓の外、庭の片隅に誰かがいた。
僕と同じくらいの背格好。ただし身に付けているのは虎縞模様のパンツ一枚だけだ。打ち付ける雨粒を弾き飛ばすほどにチリチリに巻いた髪の毛は緑色。その真ん中から、先のとんがった黄色い物体が突き出ている。
その特長には見覚えがあった。まさかという思いでそれを見つめるうち、相手も僕の姿に気づいたらしくこちらに歩み寄ってきた。
ガラス戸一枚を隔てて向かい合う。彼の口の端には小さな牙のようなものも見えた。
やっぱりそうだ。
「鬼!?」
思わず口からついて出た言葉がガラス越しでも聞こえたのか、相手はムッとした表情を浮かべた。
「だれが鬼だ!オイラをあんな妖怪と一緒にするでない!」
頬をぷぅとふくらませた彼は、身ぶりでガラス戸を開けろと言ってきた。
鬼なら絶対に開けるわけにはいかないけれど、そうじゃないなら一体なんなのだと気になった僕は、迷った末に恐る恐る戸を開けた。雨の音が大きくなる。
「あの、鬼じゃないの?」
訊ねる僕に、当たり前だと胸を張ってから彼は続ける。
「オイラはカミナリ小僧。雷様の弟子だ。いずれは一人前の雷神になるために、雲の上で日々修行をしておるのだ」
カミナリ小僧に雷様?すぐには信じられない話だけど、ついさっき大きな雷が鳴ったことを思い出した。
「ねぇ。もしかしてさっきの雷って……」
「そうだ。オイラが地上に降りたときの衝撃だな」
やっぱりそうだ。落ちたと思っていたけど、まさかこんなのが一緒だったなんて。それにしたって、どうして雷様の弟子がこんなところに?
「じゃあさ、君は何しに来たの?うちに何か用?」
「お主に用があるわけではない」
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