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そこでカミナリ小僧は難しい表情を浮かべた。
「実は、雷様の太鼓が盗まれてしまってな。それを取り戻すためにやってきたのだ」
「盗まれたって誰に?」
「オイラの兄弟子だ。雷様の元には大勢の弟子がいる。そのうちの一人が雷様の太鼓を盗んで地上に逃げたのだ。あいつは元々行いの悪いやつでな。普段からしょっちゅう雲の上から抜け出して、地上で遊びまわっていたのだ。恐らく遊ぶ金欲しさに盗んだ太鼓を売り払おうって腹積もりではないかとオイラは睨んでいるのだ」
どこの世界にも悪い奴はいるものだ。それでもまさか雷様の弟子の中にまでいるとは世も末だ。
「でも売り払うって言ったけどさ、そんなことされたら取り戻すのも難しくなるんじゃない?」
「そうなのだ。だからオイラは慌てているのだ」
苛立つように地団太を踏む彼の姿がどことなく出来そこないのゆるキャラのようで、ついつい笑いがこみ上げてしまった。
「おいこら。何がおかしいのだ。雷様の太鼓が盗まれたことがそんなに面白いのか!一大事なのだぞ!だいたいお前たち人間にとって……」
太鼓が盗まれたことじゃなくて君の姿が面白い、と言い訳したかったけど、そんなこと口に出せるはずがない。出来そこないのゆるキャラなんて言ったら余計に怒らせてしまうかもしれないからだ。そんなことを思う間にも、彼の怒りの言葉が途切れる様子はない。こうなったら手段は一つ。
「ごめんよ。お詫びに僕も一緒に探すよ。太鼓」
そのセリフで彼はぴたりと口を噤んだ。それからにんまりと笑い、僕の両手を握ると激しく上下に揺すった。
「世の中捨てたものではないな。お主の協力は雷様にもちゃんと報告しておくぞ」
延々と続く握手に振り回されるまま、「あ、あ、ありがとう」と僕は答えた。
傘をさしてカミナリ小僧と並んで歩く。と言っても彼はさっきの姿ではない。背格好が同じだったので、ぼくの服を貸してあげたのだ。Tシャツに短パン、足にはサンダル。一番目立つ角を隠すために帽子を被せてあげたかったが、頭が大きすぎて入らないのでタオルを被せた。その端を顎の下で結ぶ。頬かむりをした形だ。これならもじゃもじゃ頭も少しはおさえられる。それに加えてマスクもつけた。牙が見えないように。
「なんだか窮屈だな」
彼は不満顔だけど、さすがに虎柄のパンツ一枚で町に出るわけにはいかなかった。
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