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「ところでさ、太鼓を盗んだ奴がどこに行きそうだとか、心当たりはないの?」
「そんなものがあれば、こんなところでのんびりしていないぞ」
それもそうだ。なんと言っても彼は雲の上に住んでいるのだ。人間の世界には詳しくないだろう。
「じゃあさ、とりあえず交番に行ってみようか」
「ゴーマン?」
「違う。こうばん。何か盗まれたら、そこに届けを出しておくんだ」
「届けを出したらどうなるのだ?」
「うまくいけば太鼓が見つかるかも」
「なに!」
彼があまりにも期待に満ちた表情を浮かべるものだから、逆にこっちが不安になった。
「言っておくけど、うまくいけばの話だからね」
うまくいけばの部分を強調したけれど、カミナリ小僧はどこ吹く風で、小躍りするように駆け出した。
「何をしている。早く行くぞ!コーナンへ!」
「それホームセンターだよ」と突っ込んでから、慌てて彼の後を追いかけた。
「ほう、これがコーランか?」
「それじゃイスラム教だろ」
ぼくの言葉には聞く耳をもたず、カミナリ小僧はしげしげと建物を見上げている。やがてガラス戸の向こうに興味を移した彼は、机に向かう男の人を指差した。
「あれは誰だ?」
「お巡りさんだよ」
「オマワリサン?回るのか?」
「回らないよ」と答えたものの、町を見回るのだから回ることには違いないかと思い直す。
「いや、やっぱり回るかな」
「なんのために回るのだ?」
「悪い奴をつかまえるために見回りをするんだよ」
「なに!」と彼は目を輝かせる。
「と言う事は、オマワリサンがあいつを捕まえてくれるわけだな?」
あいつとは太鼓を盗んだ犯人のことだろう。
「だからもう一度言うけどさ、うまくいけばの話だからね」
そんな会話をしているうちに、お巡りさんはこちらの様子に気付いたようだ。ガラス戸を開けると、「何か用かい?」と声をかけてくれた。
「太鼓が盗まれたのだ。その犯人を捕まえてくれ」
カミナリ小僧のいきなりの訴えに、その人は驚いたように目を瞬いた。
「そりゃ大変だ。話を聞くからこっちへおいで」
手招きされたので、傘を畳んで中に入った。
お巡りさんは膝に両手をついて、カミナリ小僧に目を向ける。
「それで、盗まれたのは君の太鼓かい?」
「いや違う。雷様の太鼓だ」
「雷様?」
困ったような顔が僕に向けられた。
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