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「それはつまり、お祭り用か何かの太鼓を盗まれたってことかな?」
僕が答えるよりも早く、となりで「違うぞ!」と声があがる。
「お祭り用ではない。雷様の太鼓だと言っておるだろう」
お巡りさんはしばらく考える仕草を見せてから、順に僕達を見る。
「その、雷様というのは、どこにいるのかな?」
「そんなことも知らんのか?雲の上に決まっておるだろう」
それを聞いたお巡りさんは、腰を伸ばしてから帽子を被り直した。顔にはやれやれと言いたげな思いが見て取れた。
「君たち、イタズラならもうやめなさい」
「イタズラなものか。本当に盗まれたのだ!」
「じゃあこのことは、お父さんかお母さんは知っているの?」
「知るわけがないだろう」
腹立たしげに彼は頬を膨らませた。
「それならこちらから連絡するから、お家の電話番号を教えてくれるかい?」
「電話?それは何……」
言いかけていた彼の口を慌ててふさいだ。その代わりに僕が言う。
「すみません。もういいです」
「んー?」と目をむく彼を無理矢理引きずるようにしてその場を立ち去った。後ろからお巡りさんの声が聞こえてくるけど、無視して歩き続ける。やがて角を曲がったあたりでカミナリ小僧は口に当てていた僕の手を振り払った。
「おい、どうしたというのだ。オマワリサンにあいつを捕まえてもらうのだろう?」
「もう無理だよ。あのままだとたぶんお母さんを呼ばれちゃうよ」
言いながら閉じたままだった傘をさす。彼もそれを広げると、
「お母さん?どうしてだ?」
「だって、イタズラだと思われたみたいじゃん。雷様の存在なんて大人は信用してないんだよ」
「なに?」
彼は交番のあるほうを横目で睨むように見ると、
「おのれオマワリサンめ。偉大なる雷神を信じないとはけしからん。ずっと回っておるがいい」
言われなくてもずっと見回りはしてくれるよ。そんなことを思っていたら、不意に後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
振り返るとお姉ちゃんがいた。高校に入ったばかり。根は優しいけど少し口の悪いのがたまに傷だ。
「あんた、こんなところで何してるの?」
「えっと、ちょっとね……」と曖昧な言葉しか出てこない。雷様の太鼓を探しているなんて答えても到底信じてもらえないだろう。
「おい」とカミナリ小僧が僕の横腹を小突いた。
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