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「こいつは誰だ?」
「こいつとは何よ、年上に向かって。ガキの癖に」
「餓鬼とは失礼な。地獄の亡者と一緒にするでない。おいらは雷様の弟子で……」
「雷様?ブーか?お前は高木ブーか?」
「ブーではない。雷様だと言っておろうが」
ちょっと待ったと言って二人の間に割って入った。
「なによ」
「なんだ」
腹立たしげな表情をこちらに向けるお姉ちゃんとカミナリ小僧を順に指差しながら、
「こちらは僕のお姉ちゃんで、こっちは僕の友達だよ」
それがどうしたと言わんばかりに「ふーん」と二人は口を揃えた。そのまま口論が再開しそうなので僕は咄嗟に質問を口にする。
「そう言えばお姉ちゃんこそこんなところでどうしたの。どこか行くの?」
お姉ちゃんはカミナリ小僧に一瞥をくれてから、
「これからフェスに行くのよ」
「なんだそれ」
再び口を挟んだカミナリ小僧に、お姉ちゃんは挑発的な態度を見せる。
「そんなことも知らないの?」
「ぐぬぬぬ」
今にも怒りが爆発しそうな小僧を「まあまあ」と宥めすかしながら、
「でもお姉ちゃん。雨降ってるのにフェスなんてあるの?」
「なんだか知らないけど、こんな天気のほうが盛り上がるんだって。行きたかないけど先輩の友達のお兄さんが出るから仕方なくね。あとフェスって言っても有名人がでるわけじゃなくて、学園祭に毛が生えた程度のものだから」
お姉ちゃんはうんざりしたような表情を浮かべながら、バッグからA4サイズの紙を取りだした。どうやらフェスのチラシのようだ。出演バンドが顔写真つきで載っている。その中の一つを指差しながら、
「この人なんだけどね」
それを覗き込んだ瞬間、「ああ!」とカミナリ小僧が大声をあげた。
「なによいきなり。びっくりするじゃない」
それに詫びるでもなく、彼はお姉ちゃんの手からパンフレットをひったくると、それを凝視しながら呟いた。
「こいつだ。オイラの兄弟子。太鼓を盗んだ犯人だ」
僕達の話を聞いてもお姉ちゃんはやっぱり信用しなかった。それどころか鼻で笑い小バカにした。だから仕方なくカミナリ小僧の頬かむりとマスクを外して見せた。
最初はそれを作り物だと思っていたのか不遜な態度だったお姉ちゃんも、角に触れ牙を突付くうちに、それらが本当にカミナリ小僧の体から生えていることが分かり態度を一変させた。
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