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「大雨や雷などの災いを地上にもたらす霊獣だ。放っておくと害になるが、雷様は太鼓の音色でそれを操り、おとなしくさせるのだ。しかしあいつのような未熟なものが太鼓を叩けば、操るどころか逆に怒りを買うことになり、食い殺されてしまうぞ」
残虐な言葉に僕とお姉ちゃんは思わず顔を見合わせた。お互いに表情が引きつっているのが分かる。
「来た」
彼が言うと同時だった。突然空がパッと光ったかと思うとドーンと雷の落ちる音がした。
どこかで小さな悲鳴が上がった。それは伝染するように広がり始めたかと思うと、会場の人たちは散り散りになって走り出した。
ステージを覆う屋根の上。そこに何かがいた。見た目は狛犬のようだけど、その大きさはバスほどもある。それなのにそいつは軽やかにくるりと身を翻し、地上に降り立った。
「雷獣だ……」とカミナリ小僧が呟いた。
そいつは鼻息を荒げていた。その目は怒りの色で燃えている。どうやら太鼓の音色が気に入らなかったようだ。
それまで気づかずに演奏を続けていたバンドのメンバーはステージから飛び降りて逃げ出した。その後を追うように雷獣の視線が動く。
四人は一塊でこちらに向かって走ってくる。そのまま通り過ぎようとする一団にカミナリ小僧が「おい」と声をかけた。
他の三人はちらりと見ただけだったけど、一人だけ「あ!」と言って立ち止まった。
「お前、どうしてこんなところに」
とても雷様の弟子には見えないその男がカミナリ小僧に歩み寄ってきた。
「盗まれた太鼓を探すために決まっておろう」
そのときだ。雷鳴のような咆哮が辺りに轟いた。ゆっくりと首を回しながらこちらを見ていた雷獣が突然走り出した。明らかに太鼓泥棒を狙っている。
「ヤバイ」
僕も含めて口を揃えたその場の全員がいっせいに逃げ出した。雷獣は牙をむき出して地面を駆ける。
キャーキャーと悲鳴を上げながら走るお姉ちゃんと僕。頬かむりとマスクをかなぐり捨てたカミナリ小僧の後から太鼓泥棒が追いかけてくる。
「こら。あいつはお前を狙っておるのだ。だからこっちに来るな」
彼は兄弟子に向かってお前呼ばわりした上に、犬でも追い払うように手を振った。
そんなことを気にする暇もなく必死の形相の太鼓泥棒は、
「そんなこと言わずに助けてくれよ」
「バカ言うな。元はと言えばお前が太鼓を盗んだからだろう。だからお前が何とかしろ」
「無理無理無理」
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