同居

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同居

「お兄ちゃん、片付いた?  晩ご飯、何食べたい?」 私は開け放たれた兄の部屋を覗いて尋ねる。 「え、愛香(まなか)、料理できるのか?  俺が作ろうか?」 明らかに疑いの眼差しを向けられ、私はむくれた。 「ひどい!  そりゃ、お母さんほど上手じゃないけど、  私だってもう26だよ?  料理くらいできるよ!」 「ごめん、ごめん。  俺の中で愛香は16歳のままだからさ」 兄は明るく笑った。 「じゃあ、きりのいいところで下に行くから  頼むよ」 「うん!」 私は、ご機嫌で台所に向かう。 材料を確認して、メニューはパスタに決めた。 15分後。 「お兄ちゃん、できたよ〜」 兄はすぐに下りてきた。 2人で向かい合って手を合わせる。 「いただきます」 「うまっ! めっちゃうまいじゃん!  これ、どうやって作ったんだ?」 兄が喜んでくれるのは嬉しいが、少し複雑な気分。 「えっ  それは… 」 私は返事に困った。 「ん? それは?」 「お中元のパスタを茹でて、一緒に付いてた  ソースを和えただけ… 」 聞かないで欲しかったなぁ。 「ぷっ  道理で。  でも、茹で加減は絶妙だし、自信持って  いいと思うぞ」 兄はそうフォローしてくれるけど、茹で加減なんて、袋に書いてある時間通りに茹でただけだし… 「そういえば、  愛香の彼氏ってどんな奴なんだ?」 「え?」 突然聞かれて驚いた。 「父さんが気にしてたから。  彼氏がいるみたいだから、1人になって、  外泊したり連れ込んだりしたらどうしよう  って」 兄は笑顔で尋ねる。 お父さんってば、もう! だからお兄ちゃんを呼び戻したのね。 「それ、情報が古いよ」 「そうなのか?」 「うん。だって先月別れたもん」 「え? なんで?  愛香はもう平気なのか?」 フォークを持つ手が止まり、兄は心配そうに私を覗き込む。 「うん、大丈夫。  紹介されたから付き合ってみたけど、  やっぱりなんか違うなぁと思って、  お断りしたの」 「ぅわっ!  相手の男、かわいそう」 さっきとは打って変わって兄は私に冷たい視線を向ける。 「だって、お兄ちゃんが悪いんだよ」 「は? 俺、関係ないだろ」 「あるよ。  私、一番多感な時期にお兄ちゃんを見て  過ごしたんだよ?  お兄ちゃんよりいい男なんて  いないんだもん」 「ぷっ  それはそれは、お褒めいただき  どうもありがとう」 お兄ちゃんは苦笑する。  だけど、私がお兄ちゃんより好きな人に出会えないのは、絶対お兄ちゃんのせい。 身長181㎝の細身の体型なのに、ずっと陸上をやってたせいか、実は筋肉質だし、顔だって俳優かと思うほどかっこいい。 頭も良くて、国立の法科大学院を出て、今は弁護士をしてる。  そんなお兄ちゃんを見て育ったんだもん。誰を見たってお兄ちゃんと比べちゃうから、お兄ちゃんよりいい男に出会えないのは仕方ないと思う。
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