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2
3年後、国の城下町。
曇天の中町のいたるところから工場などの煙や作業に使う機械の音などが
聞こえる。その中を人々がまるで機械仕掛けの人形の如く皆が同じ動きを
して毎日を過ごしている。
いまや、3年前の町の面影はなく異質な都市となっていた。
城の王間では国王・ドルフェリア3世がその町を見下ろしていた。
そして、聞こえてくる機械音に耳を澄ませ目を閉じる。
「んー、実にいい響きだ。規則正しく刻まれるこのリズム、心地がいい。
何事も規則正しいのが一番だ。なあ、ミハエル」
すると、王の側近、ミハエルが答える。
「はっ!王様。そう思います。」
「しかし、あれから3年か。あ奴が逝ってからもうそんなにたつのだな。
民どもも落ち着きを取り戻し、毎日この私の為に命をとして働いてくれて
いる。全ては私の思い通りだ」
「王様、これが本来あるべき姿です。あの奴が民に余計なことを吹き込んだか
でいたからあのようなことが起きたのです。今の光景は当たり前の事。
なぜなら、世の中の最上にあらせられるはドルフェリア様なのですから」
「ははは、買いかぶりすぎよ。ミハエル。
今日は気分がいい。たまには真面目に働く者たちに褒美を与えてやれ
そっちのほうがよく働くだろう。」
「わかりました。すぐに手配を」
「実に愉快だ。ははは。はーはははは!」
ドルフェリア王は高笑いしながら奥に消えた。
ミハエルは表情一つ変えず王を見送り頭を下げる。
そのまま、その場に立っていると一人の男がやってきた。
「ミハエル様、よろしいですか?」
「ヘンリーか。どうした?」
「それが、貧困層がいる区画ですがまた集会を開いていたそうです。直下兵か
らの報告で上がってきました。」
ミハエルは初めて表情が曇る。
「また、奴らか。何をしていたのだ?」
「複数人がいたのは確認が取れていたのですが、集まって何をしていたのかは
突き止めれませんでした。」
「往生際の悪い奴らめ。捜索員を増やしてさらに詳しく調べさせろ。
奴らのことだ。また、やるだろうからな。いいな。」
「はい!すぐにとりかからせます。今回は私も同行致します。」
「わかった。くれぐれもしくじるなよ。」
「はい!では、」
ヘンリーはすぐに兵のもとへ行った。
(まったく、しつこいやつらだ。
3年前の事件以降、我々には向かう勢力や団体は下層へおいやり、我らに
味方するものを徹底的に優遇し今の形がやっとできたのだ。
貧困層がいる区域へ追いやれば物資も情報も途絶し段々衰退の一途を
たどると思っていたが。
だが、心配はいらん。
その、下層の者たちを先導している者を突き止めることができればあとは
圧倒的な武力を持つ我々の勝ちだ。
見ていろ。下々の者ども。そのうち立てついた事を公開する日が来るぞ」
そして、その貧困層が住む区域では毎日のように人々が仕切りなしに出入り
していた。
町の繁栄の為かどうし続ける工場などの排気がその町中に流れ町は黒い煙に
包まれていた。その中を商売の為少しでも売ろうと行き来する旅の者たちに
声をかける商売人。その隅には今にも空腹で倒れそうな大人子供やそれを
狙って悪事を働こうとする悪党など。
その後継は見るに堪えない光景であった。
そこに一人の少年がその人々の群れを次々とかけ分けていた。
「ちょっと、どいておくれよ。通してって。急いでるんだ。」
「わっ、なんだ。小僧。」
「ちょっと、何!あぶないじゃない!」
大人たちが子供に言う。
「ごめんよ。本当に急いでるんだ」
そうやってあやまると子供はさらに急ぎ足で走る。
そして、ある家に入った。
部屋に入ると自分の荷物からある鉱石を机に置いた。
「やっと手に入った。これは珍しい!今日の俺はついてる。」
「どうしたの?」
急いで帰ってきてすぐに満点の笑みで喜んでいる子供をみて女性が訪ねる
「あ、母さん。ただいま。やっと手に入ったんだよ。鉱石!」
「アダマタイト鉱石じゃない。それはどこで?」
「ないしょ。このまえ、エドルフ達が教えてくれたんだよ。試しに行ってみた
ら本当にあったんだよ。」
「でも、あなた。鉱石なんて鍛冶屋でも工場員でもないのにそんなものどうす
るの?」
「え?いや、持ってるだけだよ。だってさ。見てよ!とてもきれいだろ?母さ
んもそう思わない?」
「そうね。確かにとてもきれいね。なら、大切にしないとね」
「うん。ちょっとしまってくるよ」
少年は自室に戻り箱にアダマタイト鉱石をしまった。その時の表情は、ある
決心をしたものの顔であった。
その後少年は部屋を飛び出し、一つ下の階にある酒場へ降りて行った。
そこには大勢の人々がごった返しており雑談をして酒を浴びるように飲んでい
婁者や、少し外れたところでは一変して静まり返って何か秘密裏の話をしてい
る連中もいる。少年はそんな者たちがいるまるで猛獣だらけの酒場を小さい
体でかけていく。するとある一人の男のもとへ行く。
「おじさん。手に入ったよ。」
おじさんと呼ばれた男はまだほかの男たちと話し込んでいたがその子の一言
で会話がとまりその子へと目線が移動する。
「おお、坊主。手に入ったか。で、現物は?」
「俺の部屋にある。持ってくる?」
「ちょっとまて、ええ。話していた物がさっそく手に入ってようでして、
ええ、はい。なら持ってこさせます。、、、坊主、すぐにもってこい」
「わかった。」
すると男の子は自室へ先ほどの鉱石を取りに帰った。その男は人より人一倍
デカい目をぱちくりさせその先客と取引らしい話に戻った。
すると、奥から一人の男がその男をよんだ。
「マルグさん、ちょっといいかい?酒樽ごときれちまってもうないのかい?」
マルグはその男のもとへ向かいながら言う。
「まったく、酒癖の悪い奴らだな。あんたら、エンリケさんとこの連中だろ
この前も酒樽4つまるまる飲みつくしてまだこりんのかい。」
「しかたないだろ。俺らは族だからさ。飲み方も流儀も関係ない。飲みたいか
ら飲みたい分だけ飲むそれだけだろ。早くしろよ!!なあ、お前ら!!」
その言葉を聞いた男の連中らがマルグを茶化すように騒ぎ出す。
マルグの大きい目は血走り次の瞬間、一気に場は静まり返る。
「だまらんか!!この、馬鹿な下等な猿どもがー!!エンリケさんの顔に
免じて我慢してやったがいい加減にせんか!もう許さんぞ!!」
マルグはそういうと騒ぎ立て族の一番上らしき者を投げ飛ばした。
あまりのバカ力にからの酒樽まで吹っ飛ばされ酒樽ははじけ飛んだ。
それを見た連中は一気に凍り付いた。
すると、マルグは正気を取り戻し、
「さあ、片付いた。すいませんなあ。皆様、お見苦しいところをお見せして
お礼と言ってはなんですが今日はこの店主マルグ。皆様にご迷惑をおかけ
しましたので、これより閉店まではこのマルグがすべて払いますので
心行くまでお飲みくださいー!」
すると、場は一気に華やかになる
「おお!マルグさん。太っ腹だねー。」
「よっ!さすがマルグの旦那だ!スカッとしたぜ‼最高ー!!」
などと皆がマルグを称賛していた。
当のマルグは先ほどの取引相手とまた話を始めた。
「失礼しました。それで先ほどの話ですがどうでしょう。50ビルの所を
100まであげてもらえませんか?」
その話相手の二人は目を見合わせて困ったかおをしている。
「あの鉱石は最近発見された希少なものです。あなた方研究者にはどうしても
手に入れたい代物でしょ?少し値段をあげたとしても、考えてみてください
い。あの鉱石の奥にはあなた方のたくさんの研究材料が眠っているんですよ
決して悪い買い物ではないと思うのですが、、、」
すると、先ほどの子供が戻ってきた。
「おじさん。持ってきたよ。これ。」
すると、マルグにアダマタイト鉱石を渡した。
「おまたせしました。現物です。」
予想以上の多い量の鉱石であったため男二人は驚く。
「これは、たしかに少し値をはってでも買う価値があるかも、」
「たしかにこれだけの質量のアダマタイト鉱石があれば相当な研究ができる」
二人はまた協議をしたのち、
「わかりました。それで取引しましょう。」
「ひひひ、毎度ありがとうございます。では、これはお渡しします。」
二人は満足げに鉱石を見て話しだす。
交渉をおえたマルグはその場を離れた。すると、男の母が酒場に降りてきた。
「ちょっと!兄さん!リオを利用するのはやめてください!」
「おお、お前か。いいじゃないか。結果、こいつはいい働きをしたぞ」
「そういうことではありません!もし、リオに何かあったらどうするんですか?」
「そんなこと知るか。ここは常に危険が付きまとう地域だ。まず、住居と
飯にありつけることに感謝しな。兄妹だからここにおいてやってるんだ。
ありがたくおもいな!」
そういうとマルグはさらに奥へ行く。
酒場のお金を管理している台帳をみて、さらにマルグの目がぎょろりと動く。
「おい、リオ。さらに仕事だ。」
「ちょっと、兄さん!」
「安心しな。大した幼児じゃない。」
「何?」
「上にいるエビルに伝えてこい。」
というとリオに耳打ちする。
「わかった。」
リオは上へとあがっていった。
マルグはそのまま仕事へもどった。
酒場の3階の窓に一人の少年が外を眺めていた。
何か思索しながら物思いにふけっていると足音が聞こえる。
「おにいちゃん、ちょっといい?」
「どうした?リオ」
少年はリオのほうを向いた。
「おじさんが「今月の取り分もらってない」ぞって伝えて来いって。」
それを聞いてため息をつく少年。
「わかった。ありがとう。リオ。すまないなわざわざ。」
「いいよ。別に。んじゃ」
リオは下へ降りて行った。
すると、少年・エビルは外へ行く支度をする。
服を整え、皮の厚い靴をしっかり履き外の人々の大海原へ歩みだした。
規則的に同じ方向にながれている人の流れに逆走するエビル。
体があたりそうなのを必死によけ一波超えるとその手には袋があった。
(まあ、こんなもんか。生活の為とはいえ。盗みを覚えていかないと
生きいけないなんて、、、)
そのお金の入った袋を投げて手遊びしていると目の前に町の常駐兵と目が
あった。
「何か?、、、」
「今見たぞ。お前スリをしたな。」
「何かの間違えだよ。俺はこれをずっと持ってた。」
「しらばっくれるな。しっかりみているのだ。このまま来てもらおうか。」
「いやだよ。俺は何もしてない。」
しばらくそのようなやり取りをしているとエビルにある男の方が当たる。
「どうかなさいましたかな。」
そこには白髪の老人がいた。
「なんだ。お前は関係ないだろう。」
「いえいえ、若者が何をしたかわかりませぬが多めにみてやってはくれませ
せんか?これを差し上げますので。」
すると袋を老人がさしだす。
見覚えのある袋と思い自分の手を確認するとあったはずの袋がない、
まさに兵がわたされたそれだった。
「それに私も見てましたよ。かれは何も取っていない。そうですね?」
兵がもう一度みると彼は袋をもっていない。
現物を確認できない以上連行できないため兵は諦めた。
「ん、、、それは、、。わかった。小僧悪さするなよ。」
兵は帰って行った。
老人はそのままエビルに背をむけたまま言う
「なぜ、こんなことをしたのかね?」
「なんだよ。説教か?こんなご時世だ。盗人の一つや二つしないと生きてい
いけないのさ。しかたないだろう。家においてもらうためにはお金が必要
だったんだ。」
「ほう、、、マルグの酒場の子か。」
「じいさん。マルグのじじいのこと知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。あ奴め。まだ、こんな若い子ら利用してこんなことを
しているのか、、、」
「だって、俺はあそこじゃないと生きていけないんだ。なぜなら、、、」
「みな、言わんでいい。大概わかる。わしも下層の人間じゃ。大半がみんな
苦労しながら生きている。大人子供関係なくな。」
すると、老人はエビルに言う。
「そうじゃ、お前さん。私のところへ来ないか?同年代や青年たちも
たくさんいる。しっかり住む部屋もある。こんな、盗人のような生活
からしっかり足洗って私についてくる気はないか?」
「じいさん。まじかよ。初対面だぜ。俺たち。」
「関係ない。お前に全うな人生を送りたいという決心があるならそれで十分
だ。」
「、、、、、本当にいいのか?俺、もうこんなことする人生やらなくて
いいんだな?」
老人はやさしく微笑んだ。
エビルはゆっくり頭を下げた。
「お願いします!感謝します。」エビルは人のやさしさをしり涙した。
「ああ、私はデイビスじゃ。よろしくな。」
「エビル。よろしくお願いします。」
こうして、エビルは老人・デイビスのもとで働きながら住むことになった。
エビルはデイビスに連れられて歩き出す。
「デイビスさん。今からどこにいくんだ?」
「ん?君が今から住むところだ。行く先ないんだろう?」
「ああ」
「安心していい。今から行く所にいる者たちも皆、そこに寝泊まりしている」
「そっか、ところでデイビスさんはなにをしている人なんだ?」
「私か?、、、そうだな。言うより見てもらうほうが早い。もうすこししたら
着く。」
「わかった。」
エビルは今日からの新しい生活にワクワクしていた。マルグの顔色をみて
頻繁に人の金を盗み生計を立てる生活から脱しただけでもエビルは満足
だった。
そして、ある建物の前でデイビスは止まった。
「ここだ。エビル。君の今日から住む家だ。」
デイビスは扉を開けた。すると中には大広間がありその中には大勢の若者達が
色々と話し合いや会議をしている。
「ここは?みんな何をしているんだ?」
ネビルは中にいる彼らが今までの自分とは全く違う人種であると一瞬にして
確信した。
そこで話をしているのは自分より年の近い者たちで皆熱を帯びて話題について
議論している。
その光景を見ていたネビルはそこにいる彼らに対して自分には考えられない事
をかれらはしていると尊敬の眼差しで見ていた。
「ちょっといいか。リチャード。今日からこの子も仲間になった。
さあ、ネビル挨拶をしなさい。」
「え、ああ。ネビルです。ネビル・ドルフェリア。よろしく。」
「よろしく。俺はリチャードだ。」
リチャードはとても暖かい眼差しでネビルを見つめている。
ネビルはそのリチャードに初対面なはずなのにとてつもない信頼感を感じた。
「さあ、では後はリチャード頼んだぞ。」
「はい。わかりました。師匠はどちらへ?」
「あと片付けだよ。すぐに戻る。」
「デイビスさん。今からマルグのところへ行くの?なら、俺も、、、」
デイビスは静かにネビルを静止する。
「心配はいらんネビル。君はリチャードと共にこれからの事をしっかり勉強
するのだ。君の今から生きるための話なのだからな。」
「でも、、、、」
「ははは、この私に任しておけ。マルグ相手ならすぐに話はつく。」
「ありがとう。」
「では、行ってくる。」
「師匠、お気をつけて。」
デイビスはマルグのもとへ出かけた。
「さあ、ネビルおいで。みんなに紹介する。心配いらないさ。すぐにここが気
にいるよ。」
「よろしく、、、おねがいします。」
こうして、ネビルはデイビスのもとで過ごすことになった。
一方、町の広場にある兄妹が足をふみいれていた。
「うわー。ここかぁー。確かに。すごい人ね。町の雰囲気は最悪だけど、、
ねえ、兄さん。」
「ああ、ネイト。そうだな。それはそうと。目的の場所はもう少しなんだが」
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