襲撃の後

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襲撃の後

 連合軍ヴァンディリア方面小隊長のアルマ・リュクスとその部下が到着し、襲撃者の死体は早々に片付けられた。医療魔術師が部屋全体に浄化魔術をかける。  アルマは女であったが、勇猛果敢で知られる武人の一族・リュタン家の血を引く戦士だった。簡素で実用的な鎧に身を包んでいる。その美しさは、戦場でより輝くと言われていた。  ベッドに横たわる意識のない娘を見て、アルマは傍らの部下に言った。 「あれが〈姫〉か」 「はい」  娘の枕元には、一人の青年が付き添っている。医療魔術師の助手に扮していた青年だった。 「あの男は?」 「ジェス・ルーシス。ヴァンディリア公の拠点の一つだったケルツァ城陥落の際、多大な戦功を上げた志願兵です。……イルダの町の出身です」 「……なるほど」  ジェスはただ〈姫〉を見つめている。 「しかし、帝国も堕ちたものだな。亡くなった本物の公女の代わりに、偽の公女を擁立して兵の士気を高める旗頭にしようなどとは。あの娘は、公女とは似ても似つかぬというのに」 「自らを公女だと信じ込んでいる者なら、その辺りはどうにでもなるという公算でしょう。末端の兵であれば、公女の顔を知っている者も少ないですし」 「いずれにせよ、あの娘を帝国に渡すわけには行かん。残党が残っていないか、辺りの警備を強化せよ」 「はっ!」  部下は敬礼をして、部屋を出て行った。アルマはジェスに近寄り、声をかけた。 「ジェス。〈姫〉の奪還を阻止出来たのは、君の手柄だ。よくやった」 「……功績を上げたくてやったわけではありません」  ジェスはアルマを振り向きもせず、答えた。 「俺はただ、彼女を誰にも渡したくなかった。それだけです」  それは一介の志願兵が分隊長に対して取るには無礼な態度であったが、アルマは不問に付すことにした。この若者が背負っているものを察したからであった。 「……二年、です」  しばしの沈黙の後、ジェスは誰にともなくぽつりと言葉を口にした。 (そう、たった二年だ)  ジェスは思い返していた。 「それだけの時間で、俺と彼女の有様はすっかり変わってしまったんです」
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