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実験場
連合軍の兵士が厳重に鍵のかかった部屋に踏み込むと、そこに一人の若い娘がいた。娘は入って来た兵士達を睨んだ。
「おまえ達、何者だ?」
「連合軍ヴァンディリア分隊の者だ。おまえは?」
「私は公女ナタリアだ。皇帝陛下に反逆する輩ども、そこに直れ!」
彼女は公女の名前を名乗り、剣を取って連合軍の兵士達に斬りかかって来た。やむなく兵士達は反撃にかかる。公女であれば、討ち取れば手柄にもなる。
「リーサ!」
そこに援軍の一団の一人として駆けつけたのがジェスだった。
「やめろ、それはリーサだ!」
「その娘は公女ではない! 殺すな!」
ジェス以外にも、本物の公女の顔を知っている者がいたのが幸いした。彼女は重傷を負ったが、一命を取り留めて保護された。
同じ頃。
アルマの率いる一隊は、城の地下牢の入口を発見し、中の探索に入っていた。
「……何だ、これは……」
アルマは目の前に広がった光景に、思わず声を漏らした。
城の地下牢には、廃人同様になった娘や、発狂した娘が何人も閉じ込められていた。いずれも公女と同じくらいの年頃の娘で、国の各地から集められた娘達に違いなかった。
ここで何が行われていたかは、連合軍内の魔術師連盟の調査によって判明した。
皇帝アシュ・ヴェグランド2世は魔術に耽溺する皇帝であった。魔術を独占しようとして侵攻と弾圧を行ったこの苛烈な皇帝の知的好奇心は、最悪の形で発揮されることとなった。即ち、帝国及びその領内の各所で、魔術による人体実験の数々が行われていたのだった。
ケルツァ城も実験場の一つだった。ここでは、人の記憶を他人に移すという記憶改竄の実験が行われていた。
集められた娘達は公女と同年同月同日に生まれた娘で、それ故に選ばれてナタリア公女の記憶を植え付けられる魔術の実験台にされていた。地下牢にいたのは、実験に失敗し精神を破壊された者達だった。
リーサは、実験の唯一の成功例だった。彼女の記憶は、そっくりナタリア公女のものと入れ替えられていた。
リーサという娘は、もういなかった。
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