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待ち合わせ場所に時間より早く着いて、髪を気にしながら斗真を待つ。
今日は髪を下ろして、横髪を小さなピンで両側に留めた。
(年齢的にこれはないか?)
と思いながら姿が映るお店のガラスを見た。
そのガラスに斗真の姿が映り、振り返り躊躇する事なく手を振った。
「ごめん、お待たせしてしまいました。」
「いいえ!まだ…時間前ですよ?」
腕時計を見せながら言うと斗真が笑う。
「お互いに早く来ちゃいましたね。じゃあ行きましょうか。」
自然に出された手に向かい、少し遠慮がちに手を伸ばす。
「…はい。」
斗真は躊躇なく蝶子の伸ばされた手を取り、歩き出す。
一緒にいて遠慮はまだお互いにあるが、周りの声は蝶子には気にならなくなっていた。
誰が何を言っても今この瞬間に一緒にいるのは自分で、斗真が選んでくれたのも自分なのだと思える様になったからだった。
誰もが薔子を選ぶと思っていて、お見合いまでして努力するとまで言われて、それでも蝶子を選んでくれた事に自分も自信を持とうと思えたのだった。
映画を観に行き、お洒落なカフェに入って昼食を食べる事になった。
映画の話をしながら楽しい時間を過ごす。
ふと、蝶子は腕時計に目を落とした。
それを斗真も見逃さずに蝶子の表情を見て聞く。
「気になる?そろそろかな?」
「午後一時って聞いてます。お父さんは賛成みたいですけど…。」
「…うん。普通は父親が反対するものだけどね?うちの姉の時も父が先に賛成したから同じだね。」
笑顔を作り斗真が話してくれる。
綾奈は結婚しているから言わば成功例で、それを聞くと少し安心出来た。
「綾奈さん、結婚の時はどんな感じでした?反対されて家を出たと聞いたのですけど…。」
「う〜ん…お見合いしてお断りして、なんで断ったかを聞かれて彼氏いるからって言って半年は家にいたけどね。彼氏にしてもさ、急にお見合い断ったからぶっちゃけたら大変な事になったもんで結婚して…とか言われてもねぇ?」
「……です、ね?」
(綾奈さん、それ言ったのかな?)
と思いながら聞いていると、斗真はくすくすと笑う。
「いつでも心の準備はしておきますからね?ぶっちゃけていいですよ?」
斗真に言われて蝶子は小さく頷いた。
自分だけの味方がいる…これだけで十分に心強かった。
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