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私というもの。
「おはよう、薔子」
「おはよう、お父さん、お母さん。あ、蘭お姉ちゃん今日からいないのね。寂しいね。」
「そうなんだよ。今、母さんともその話をしてたとこだ。」
「ちゃんと朝ごはん、作ってるんでしょうか?」
「大丈夫だよ。蘭お姉ちゃんしっかりしてるもの。」
リビングに続くダイニングテーブルから賑やかな声が聴こえる。
朝から気持ちが重くなる。
出て行きたくはないし、できるならこのまま仕事に向かいたい気分だ。
でもそんな事をしたら何が気に入らないと、母からのメールの嵐と着信攻撃に合う。
ため息を吐いて足を進めた。
「おはようございます。」
「あ!お姉ちゃんおはよう!」
「おはよう。」
「おはよう。遅いよ?蝶子はいつも…。手伝ってちょうだい。」
「はい。これ、やるわ。」
台所の上に置いてあった途中の野菜を手にして洗い始める。
「うん、お願いね。」
「あ、お母さん、それ私がやるよ?」
席を立とうとした妹を手で制止し、母は席に座った。
「薔子はいいんだよ?火傷したら大変だからね。座りなさい。仕事だって受付なんだしね?火傷した手なんて出したら仕事にならないよ?」
「……でも、それはお姉ちゃんだって…。」
私の方を申し訳なさそうに見て薔子は言う。
「良いのよ。私は事務だから…。」
「そうだよ?蝶子は事務だからね?指に絆創膏巻いてても、火傷してても関係ないんだよ。ほら、食べましょう。」
頭が良くて要領が良く、美人で華やかな長女…蘭子。
美人で可愛くて頭も良く、性格まで優しくて素直な三女…薔子。
三姉妹で同じ血を引いているはずなのに、残念な子と言われる私。
容姿は十人並み、あくまで普通…性格は暗めで大人しく口数も少なめ、自分をアピールするのが苦手なへそ曲がり次女…蝶子。
これが私、ここから逃れたくて逃れられない、そんな蝶々。
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