89人が本棚に入れています
本棚に追加
彰からのメッセージを待っていたりしたお陰で、水野さんとの約束の時間に少し遅れてしまった。
まったく、あいつが絡むといつもロクなことがない!
あたしは広いキャンパスを走って、カフェテリアに入る。
窓際の席で水野さんが手を挙げるのが見えて、あたしは息を切らしながら近づいて行った。
「すみません、お待たせしちゃって…」
謝ると、水野さんは「そんなに急いで来なくても大丈夫だよ、授業が長引いた?」と穏やかに笑って、隣の椅子を引いてくれる。
「いえ、彰が授業に来なかったので、心配でLINEしてて…」
椅子に腰かけて小さなタオルで汗を拭き、大きく息を吐く。
「え…彰くん、体調悪いの?」
「さあ。大丈夫なんじゃないですか。
人をコケにする元気はあるみたいだし」
さっきの小バカにしたようなLINEのメッセージを思い出して、あたしはムカつきながらそっけなく返事した。
水野さんは苦笑して「…で?巳緒ちゃんの話って?」と眼鏡の奥の瞳を笑わせて、あたしの顔を覗き込む。
あ…そうだった。
バカ彰のせいで、すっかり忘れてた。
あたしは水野さんの方に身体を向け、その途端に心臓がバクバク打ち出すのを感じて、思わず下を向く。
いいんだよね…?あたし。
言っちゃって。
あたしは顔をあげて水野さんの優しく微笑む理知的な顔を見る。
思い切って口を開いた。
「あの、先日の話のお返事なんですけど…
あたしで、良ければ、あの、お付き合い…」
なんだかしどろもどろになってしまう。
うわ、恥ずかしい…
「えっホント?!
付き合ってくれるの?」
水野さんは嬉しそうに笑って手を伸ばし、あたしの目にかかる前髪を除けながら訊いてくる。
「あ、はい、あの、水野さんのことまだよく知らないし、すごく悩んだんですけど…」
「それはこれから、ゆっくり知ってもらえばいいよ。
そこは全然、急いでない」
水野さんのほっとしたような笑顔を見て、あたしは喜んでもらえたみたいで良かったな、と思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!