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「あっきらくん♡」
廊下を歩いていると、伊藤が後ろから抱きついてきた。
「うわ、なんだ酒臭いなお前」
「うるせーよっ」
俺は伊藤に向かって、はぁ~っと息を吐きかけてやった。
伊藤はギャッと大袈裟にのけぞる。
「そんなんで大丈夫なのか。
今日バイトだろ」
「今日は厨房だから大丈夫」
教室に入りながら言うと伊藤は追いかけてきて、俺の隣の席にカバンを置いて呆れたように言った。
「お前、顔は結構イケてんだから、もっと実入りの良いバイトすりゃいいのに」
「嫌だよ。誰がホストなんてやるか」
「そこまでは言ってねえ…」
今度は苦笑いしている。
「っていうか、まだ巳緒ちゃんと仲直りできてないの?
オレ、彰くん経由で巳緒ちゃんのノート借りられないと困るんだけど♡」
伊藤はクネる。
「ウザいんだよ、キモいからやめろ。
巳緒とは別に喧嘩してないし」
俺は席について、ノートとテキストを出す。
伊藤は黙って俺を見ていたが、やがて憮然として言った。
「喧嘩してないなら、何で全然しゃべらなくなっちゃったんだよ。
あんなに仲良かったのに」
「巳緒ちゃんに彼氏ができたからって、そんなふうに遠慮するなんておかしいよ。
まるで、巳緒ちゃんのこと、好きだったみたいじゃないか」
「うるっせえ!」
俺は思わず怒鳴った。
一瞬、ドキンと大きく打った心臓の音を隠そうとして。
教室内が静まり返る。
伊藤は宥めるように俺の肩をポンポンと叩いて言う。
「判った判った。もう言わないから。
そんな怒んな。な?」
巳緒が遠くから俺を見ているのが判る。
そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。
俺が悪いのは解ってる。
巳緒に対して、恋愛とかいう感情はない。
それは断言できる。
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