彰(あきら)・1‐1

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 「あっきらくん♡」  廊下を歩いていると、伊藤が後ろから抱きついてきた。  「うわ、なんだ酒臭いなお前」  「うるせーよっ」  俺は伊藤に向かって、はぁ~っと息を吐きかけてやった。  伊藤はギャッと大袈裟にのけぞる。  「そんなんで大丈夫なのか。  今日バイトだろ」  「今日は厨房だから大丈夫」  教室に入りながら言うと伊藤は追いかけてきて、俺の隣の席にカバンを置いて呆れたように言った。  「お前、顔は結構イケてんだから、もっと実入りの良いバイトすりゃいいのに」  「嫌だよ。誰がホストなんてやるか」  「そこまでは言ってねえ…」  今度は苦笑いしている。  「っていうか、まだ巳緒ちゃんと仲直りできてないの?  オレ、彰くん経由で巳緒ちゃんのノート借りられないと困るんだけど♡」  伊藤はクネる。  「ウザいんだよ、キモいからやめろ。  巳緒とは別に喧嘩してないし」  俺は席について、ノートとテキストを出す。  伊藤は黙って俺を見ていたが、やがて憮然として言った。  「喧嘩してないなら、何で全然しゃべらなくなっちゃったんだよ。  あんなに仲良かったのに」  「巳緒ちゃんに彼氏ができたからって、そんなふうに遠慮するなんておかしいよ。  まるで、巳緒ちゃんのこと、好きだったみたいじゃないか」  「うるっせえ!」  俺は思わず怒鳴った。  一瞬、ドキンと大きく打った心臓の音を隠そうとして。  教室内が静まり返る。  伊藤は宥めるように俺の肩をポンポンと叩いて言う。  「判った判った。もう言わないから。  そんな怒んな。な?」  巳緒が遠くから俺を見ているのが判る。  そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。  俺が悪いのは解ってる。  巳緒に対して、恋愛とかいう感情はない。  それは断言できる。
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