彰(あきら)・1‐1

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 俺が近づいていくと、茶髪の子は真っ赤になって頭を下げる。  「あの、来てくださってありがとうございます!」  「私、人文学部の1年で、大谷詩織って言います」  顔をあげてあたふたと言った。  茶色のふわふわした髪が、真っ赤になった顔を縁取っていて、とても可愛い子だ。  「急に呼び出したりしてご迷惑なのは解ってるんですけど。  桝沢さんと別れたって聞いて、どうしても柳原さんとお話ししたくって…」  桝沢…、え、巳緒?  俺は驚いて言った。  「桝沢とは別に付き合ってない。  だから別れてもないけど」  「え?そうなんですか?」  大きな瞳を(みは)って訊いてくる。  わ、瞳も茶色い。  カラコンじゃないよな。  「そうそう、あいつは友達」  「…えーっ」  大谷さんは両手で口を覆って言う。  そんなに驚くことか?  「それで…話って」  バイトの時間も迫ってきてるので、思い切って訊いてみた。  「あっ!すみません!」  また真っ赤になる。可愛いなあ。    「あの、私、入学式の時に柳原さんを見かけて、それからずっと好きで。  いきなりでビックリだと思うんですけど、付き合ってください」    キターーーーーー  俺は思わず叫びそうになって、はっとして踏みとどまった。  挙げてしまった右手を首の後ろに持っていき、何とかごまかす。  「うーん…でも俺、君のこと知らないしなあ…」  とかクールを装ってみる。  大谷さんは泣きそうになってしまった。  俺は慌てて「判った。じゃあ、とりあえず1ヵ月、つきあってみよう」と言った。  「君だって俺のこと知らないし、つきあってみて判ることもあるでしょ」  大谷さんはちょっと考えて、頷いた。  「じゃあ、とりあえず1ヵ月お願いします」と言って首を傾げてニッコリする。  女の子らしい仕草に俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。  「ごめん、これから俺バイトだから。電話番号教えてくれる?」  急いで言うと「え…嬉しい」と言って急いでスマホを取り出し、電話番号を交換して互いにLINEを登録した。  「しおりん」というアカウントがLINEに追加された。  うおっ!彼女だよ俺の!  
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