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最終日も無事に仕事が終わり、後は倫ちゃんに託してあたしは着替えて麻理さんに挨拶に行った。
麻理さんは封筒を持って、事務室から出てきた。
「1ヶ月半、お世話になりました」
とあたしが頭を下げると、小百合さんは
「こちらこそ、本当にどうもありがとう。
巳緒ちゃんの明るい笑顔と元気な声の接客に、私とこのお店もとても助けられたわ。
できればずっと働いて欲しいと思ってたんだけど」
そこまで言って言葉を切った。
「20日ごろ侑都から巳緒ちゃんと婚約したいって言われて、驚いた姉から連絡があって。
桝沢さんってどんな娘?って姉から訊かれて私もビックリした。
侑都の行き過ぎた溺愛ぶりについては私も危惧していたんだけど、まさかそんなに思いつめているとは思わなくて…
その時は、よく働いてくれる明るくて優しくてとてもいい子よって姉に答えたの」
「日を置かずにまた姉から電話があって、侑都が巳緒さんに婚約の話をしに行ったあと倒れて入院したと。
夏休みの後半に入ったころからひどく憔悴している感じはあって、巳緒ちゃんの勤務日にも来なくなったし私も心配はしていた。
でも姉の話を聞いているうちに、冗談では済まされないようなことを侑都がしたと知って、巳緒ちゃんに本当に申し訳なくて」
「侑都の叔母として、また巳緒ちゃんの雇い主として見通しが甘かったと思う。
私が一番近くにいる大人だったのに、侑都の行動を止めることもできず巳緒ちゃんを怖い目に遭わせて、本当にごめんなさい」
そう言って麻理さんは深々と頭を下げてくれた。
あたしは涙が止まらなかった。
麻理さんが謝ることじゃない。
「麻理さん…謝らないでください。
あたしが水野さんのことちゃんと好きになれなくて、あんなに苦しめて申し訳ないと思っています」
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